『三体Ⅱ 黒暗森林』を上下巻ともに読み終えた。読むまでにもう少し期間が空くかなとイメージしていたが、先週中にふと購入して週末までに何ページか読み進めてしまい、日曜日の昼に上巻を読み終え、そのまま勢いで下巻もあっさりと読み終わってしまった。

何故か? 電子版で読んだので実際には分からないが、店頭で見た限りではそこそこのページ数だと思われたし(その事実として上下巻に分かれているわけだが)、あまり時間がかからなかったのは熱中したためだろうか、読みやすかったためだろうか。

ところで、最初からずーっと「暗黒森林」だと思っていたが、読み終わって気がついてみたらようやく「黒暗森林」であることに気がついた。恥ずかしい。

大雑把にいうと『三体』よりも面白かった。前作は、ゲーム内世界で再現される三体世界の様子と彼らの社会の発展、地球文明との邂逅が、作品における描写や展開のキモであったように記憶しているが、本作は三体世界との対峙が描かれている。その分だけ、単純に物語にスリリングさが増している。ゲーム内の奇妙な世界がオマケ程度にしか登場しなくなったのは寂しいが。

主人公である羅輯のキャラクターも嫌いではなかったが、前作の主人公-と言っていいのか判断しづらい葉文潔、羅輯の役割というのが彼女の構想の範疇を出ていなかったのではないか、という歯痒さはある。これは解説でも指摘されていた。

また、キーポイントとなる概念の要素が冒頭から明かされているが、これについては勘の悪い私でもおおよその流れは読むことができた。だからといって本作の面白さや読書体験が損なわれるものでもなかったが、的中した嬉しさ半分、物足りなさ半分といった心持もなくはない。

話はめちゃくちゃ面白いのだが、登場人物がイヤにみんな素直に思えてしまうのは何故なのだろうか。人類 VS 三体世界 という構図とそこで展開される戦略は魅力的で、重ねて「人類の敵は所詮人類だ」という命題もサブテーマ的に描かれるのだが、その人類の敵というのは、愚かで、かつ絶望しきった民衆ということに尽きるのでは。三体世界へ宗教的な恭順を示す地球三体組織、通称 ETO も時の流れには勝てずに消えていったということだが(続編では定かではない)、このへんも割とアッサリしていた。そもそも…、まぁいいや。

袋小路の人類

本作のもう1人のキーパーソン的な人物である章北海と、彼の辿る結末が最もよく分からない。この人物が担った思想的な役割と、描かれる展開にはなんらかの史実的なメタファーがあるようにも思えるが、パッと分かるものでもなかった。

章北海の信念のバックボーンは最期の最後まで明かされない。自らの信念に基づいて行動する彼は、読み進める限りにおいては、一見すると、面壁者テイラーがある意味で求めたような軍人のイメージに近いようにも思える。盲信あるいは諦念、信仰あるいは憎しみを抱いて、自らの命を省みずに最後まで戦い続ける、というようなタイプの戦士、軍人だ。

表面的にはそれは間違っていないだろうが、彼の信念と行動を支えた、バックボーンと思考は、根本的には盲信の類とは正反対、と言ってよさそうで、この信念は限りなく感情的ではなく、思考や理由が担保された、少なくともそのように整えられていたはずだった、のか?

フワフワと考えていると、結局のところ彼がなにを実現したかったのか、掴み損ねるのかもしれない。彼が、その信念を燃やし尽くしたと思われる瞬間には何が起きていたか、なぜそれで彼は満足したのか、考えてみると、おもしろそうではある。

人類 VS 三体世界 という終末戦争が、実感とリアリティの薄い現実であった時点まで、ときには人類は恐怖し、あるいはそれを忘れて日常を取り戻し、大なり小なりのいざこざを抱えつつも地球文明を持続させていた。羅輯や章北海の抵抗が、一過的なものであったり、そもそも行き詰まりしか見いだせない類のものであったり、というときに実は本作は読んでいるときの印象以上に、ただただ影のみが濃い作品なのではないか、とかね。

完結作の邦訳は順調に進めば、来春ということらしいので、楽しみだ。今度は発売と同時に読みたいという気分になっている。

追記:以下が「三体Ⅰ」「三体Ⅲ」の感想となる。

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