アカデミー賞 2020 作品賞を受賞した《パラサイト 半地下の家族》を鑑賞したのは、本年の1月のことであった。原題の《기생충》はまさしく「寄生」で、同じく英題は《Parasite》、「半地下の家族」を副題として添えたのは配給会社だかの判断だろうか。取っつきやすさを感じるので個人的にはよいのではと。

本作、とりあえず社会派サスペンスという括りでいいだろうか。笑える要素やお得意の猟奇的な描写も豊富で味わい深く、おいしい。あらすじといえば、半地下のアパートに暮らす一家が息子、キム・ギウのバイト先である高級住宅地に住まう一家に寄生する。その顛末を描く。

私は、不幸な顛末になることが確実に予想される状況で登場人物が調子にのっている描写や展開が苦手で、前半の流れを面白おかしく楽しめた一方、徐々に胸が締め付けられてツラかった。そのピークは、泊まりで外出する家主家族の入れ替わりに、寄生の家族がリビングで晩酌するシーンで、心の中は地獄と化していた。今後の展開が怖すぎる。

ところで、本作のキーポイントである「匂い」あるいは「臭さ」は、そのままに読み取れば半地下で暮らす人間たちのシケっぽさがイメージしやすい。生乾きの衣類が醸す臭さは、あるいは学校で使う雑巾にも似ていて、それが日々の生活に浸透してくるとしたら耐え難い。そういう耐えがたさと同居し、慣れ切っていたのが、半地下の家族だ。

後半の地獄絵図が、その内容に反して美しい。丘の上の豪邸エリアから流れ落ちる雨水はそのまま半地下の世界にまで侵入していく。同じように転落してく親子は、濁流とともに世界を下っていく。その姿には愛おしさすらある。小高いエリアから大嵐の中を下へ下へ、ずんずんと降りていく。どこまで降りていくのか。この図は現実か虚構か、そういった絵作りがなされており、非常に楽しくもあった。

直前まで戦々恐々とスクリーンを眺めていた自分が、すでにワクワクしているという事実を自覚するのも痛快な体験である。沈みかけている半地下の家で感電する危険をいとわず家財を運び出す父子、便座の蓋に座って逆流する排水を抑えながらタバコを燻らす娘、圧巻の光景に笑わずにはいられない。

カラリと晴れた、あまりにも明るい空の下で展開される第3幕は、丘の上の陽の世界と半地下の世界、さらに背後の世界を巻き込んで、予想もつかない結末として混乱の中に終わった。思い返せば、家政婦であるムングァン(イ・ジョンウン)の怪演は、確実に本作を面白くしていたな。

山水景石

息子、ギウの友人ミニョクが土産に置いていった「山水景石」というアイテム、幸運をもたらすという触れ込みだったが、まったくそうはなっていない。要所要所で象徴的で、解釈の余地も大きい。そもそも事件のきっかけをもたらした当友人の采配が奇妙であることを持ち出すと、理解は面倒くさくなるような…。

物語の大方は父であるギテクを中心に展開するが、全体は山水景石を携えたギウの冒頭と終盤によってサンドされている。山水景石については、ググればそれなりにまとまった解釈がいくつか出てくるので参照されたい。

さて、父と息子の物語だというと雑に過ぎるが、ギテクの無計画という計画の果てが、明確な夢や目的を見い出せずに生きていたギウになんらかの道筋を与えることになったのは、それが贖罪のようなほの暗いものであっても、いくらかの救いを感じる、そんなまやかしがある。ということで、冒頭では社会派サスペンスではといったが、ベースはエンターテインメントなんだよね。

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