ヒッチコック作品初のカラー作品、『ロープ』《Rope》を観た。ショッキングなオープニングから始まる本作は、サスペンスらしさ満載でワクワクさせられるスタートだ。物語はアパートの一室で完結するし、結末の見せ方も舞台っぽいなと思ったらやはり舞台作品の翻案らしい(Wikipedia情報)。

また、舞台、本作の基には実在の「レオポルドとローブ事件」があり、どのような事件かといえば、超人思想にかぶれた若者 2 人のバカげた虚栄心で殺人事件を起こす。

情報によれば「ニーチェの超人思想がうんぬん」となっていたが、ニーチェの超人思想というか、その曲解だろう。実在の事件を起こした若者らはユダヤ系だったというのは、文字通り、皮肉な点で、元の事件は 1920 年ということだが、戦争も一段落してこういう題材が映画で取り上げられる余裕も出たみたいな向きもあるのかな?

さて作品の内容に触れる。

舞台設定が少しばかり想像に委ねられている個所がある。犯人らと被害者はハイスクールかカレッジの同窓生のようだが、被害者は理不尽な恨みを 2 人から買っていたようで、それが犯行に繋がった。理不尽な恨みを正当化するための超人思想ではあるようだが、まぁ甘っちょろくて子供っぽい。

犯人の 1 人、ブラントンはややもすれば高慢な人間で、犯行直後に同室で開催したパーティーで場を支配し切ろうとする。この強がりが破綻気味なのは傍から見ていれば、つまり観客側からは明らかなのだが、それはつまり演技のさじ加減が上手いのだと思う。彼の演技は好きだね。ちょっとブラット・ピットの雰囲気が被った。

もう 1 人の犯人フィリップは対照的に、犯行を後悔し、怯え切っている。これは作劇の妙だが、ブラントンの方は動機が透けて見える気がするのに、フィリップはよく分からんのだ。だが、犯行時にロープを力強く引いていたのはフィリップなんだ。結論は示されないが、想像力がかき立てられる。うまい。

被害者の人間性も、パーティー参加者の証言でしかわからないので、彼は本当はちょっとくらいでもイヤ味のある人間だったのか分からんし、彼は本当に実に好青年で、犯人らの勝手な嫉妬が本当に勝手に燃え上がっただけなのかも分からん。

ちょっと、ヒッチコックの監督作品の一般論みたいな話を挟む。

ここまで観てきた作品の多くにおいて、犯行がばれずに犯人側が万歳! とはならないのが前提で、かつ犯行なり物語の真実が本当に露見するのは本当にクライマックスであることも定番であった。

事件の発生とクライマックスを繋ぐ、そのあいだの劇、物語、会話について、事件を直接解決するための描写はどちらかといえば最小限だ。ではいったい、どうやって 1 時間以上の作品を娯楽として埋めているのか、成立させているのか。

元に戻るが、あらためて考えるとロープの場合、上述のような仄めかされる人間関係を推察するのが、本編を眺めているときの大きな楽しさなのかな。犯人 2 人を除いたパーティー参加者のユニークさは、探偵役であるルパート以外はあんまりなかったかな。家政婦? の方はちょっとおもしろかったか。

撮影方法としては疑似ワンカットというやつで、カメラがブラントンの後姿のジャケットにズームしていって暗転し、のような箇所がいくつかあり、前後はそのまま続いているように演出している。そして、作中では上映時間の 80 分がそのまま過ぎていく。

舞台を翻案した作品であることを意識付けたかったか、あるいは脚本をヘンに映画向けに操作する必要も感じず、このような手法を取ったのか、といったところだろうが、ワンカット風をワンカット風として価値づける理由ってなんなんだろうな。それは 1 本の作品の長さや、フィルムというツールの都合もありそうだけれど…。

ワンカットであることとは関係はないが、居間からエントランスを通って逆側のダイニングへとカメラが移動し、ブラントンがキッチンの扉を開く。キッチンの扉はいわゆるスイングドアで、勢いよく開いたものだから、ユラユラと揺れる。

揺れるドアの向こうでブラントンが犯行に使ったロープを引き出しに隠すが、すぐ隣のダイニングには家政婦がいる。ブラントンがスリルを楽しむようにしているが、これはフィリップに見せているわけではないので、見るとしたら当然私たちだ。

ロープを隠す作業をするお道化たブラントンが見え隠れするのは、犯行が露見するのか隠し通せるのかを暗示しているわけだが(もちろん露見する!)、それを揺れるドアでの見え隠れで表現するなんて、いかにもオシャレなカットだ。今作で 1 番好きなシーンだね。

居間の背景もすばらしかったと言及しておく。背後の壁はほぼガラス張りで、向こうの遠景には摩天楼が広がっており、 冒頭からラストまでの 80 分間で青空の昼間、オレンジの夕刻の差しかかり、紺色の混じる夜の差しかかりと色合いが変わっていく。なんとも美しくて、ついつい役者たちを忘れて背景を眺めてしまうくらいだった。

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