六本木は森アーツセンターギャラリーで開催されている《おいしい浮世絵展 ~北斎 広重 国芳たちが描いた江戸の味わい~》に行ってきた。リサーチしていたワケでもなかったが、ひさびさに美術館で浮世絵を眺めたいという機運が、Twitterに流れてきた広告に見事に引っかかり、行くことにした。

会期は 4 回に分かれており、少しばかり展示品に入れ替えがある。これは目録 PDF で確認できる。目録は上記リンク先の公式ページの[見どころ]の項からダウンロード可能だ。コロナ対策のためか会場では手に入らなかったので、目録必須の人は気をつけてほしいね。(2021年10月追記:公式ページがもう閉鎖されており目録PDFもないですね)

また、これもコロナ対策だが、日時指定予約が必要となっている。ということは必然的に人が減るのだ。混んでいないというワケではないが、作品をじっくり楽しむには十分な人口密度となっていた。

企画は「第1章 季節の楽しみと食」「第2章 にぎわう江戸の食卓」「第3章 江戸の名店」「第4章 旅と名物」の順となっており、その並びに無理も違和感もほぼなく、ワクワクが優った楽しい構成だった。展示品の制作年代の明記がなかったのは残念だったが、構成上の理由なのか、他に理由があるのかよく分からん。

出品元で目立ったのは「味の素食の文化センター」で、なるほど食文化という観点からは本展にびったしの収蔵元だな。高輪にあるらしいけど、知らなかった。

ほとんどが歌川派の作品で-まぁねぇ-、国貞(三代目豊国)、国芳をあらためて鑑賞できたのは収穫だった。サブタイトルには「広重」「国芳」がピックアップされているが、国貞が居なかったら成立しない企画でしょう。第 4 章の内容に応じて広重も多かったが、これは流石に何度も見てきたので慣れてしまった部分も大きい。

その他、北斎漫画からの出品で葛飾北斎、知っている浮世絵師としては溪斎英泉、勝川春亭、月岡芳年などが展示されていた。東洲斎写楽は、会期 2 と 3 のみとなるらしい。その他、歌川派や知らない方がちらほら。

あとは、『パリ・イリュストレ』誌の日本特集とやらに掲載されている喜多川歌麿の「台所美人揃」もみられた。これはその構図を国芳が「江戸じまん名物」というシリーズで取り入れている例の側面もあり、目の前でそれらの作品と比較できる。正しくそのままの構図なのであった。いいよね、こういう風にその場で比べられるのは。

登場する食品や食料、調味料には、寿司、天ぷら、果物、蕎麦、うなぎ、餅、豆腐、魚類、醤油、酒などなど。いずれも大衆化への道筋が示されていた点に企画の妙があって、たとえば寿司なら食酢の流通、天ぷらならごま油などの食用油の流通、蕎麦なら醤油や酒、鰹節などからのつけ汁の発達など、それぞれの事情がある。

個人的にもっとも興味深かったのは豆腐で、これはかなりの古来から日本に伝わっていたらしいが、江戸時代に生産が安定したためか庶民で爆発的に流通し、幕府はその量に制限を掛けたほどだという。

以下は気になった作品のメモなど。

『十二月ノ内 水無月 土用干』

第1章の展示作品。梅雨明けに着物を干す図という作品だが、女性らの足元にはキューブ上に切り並べられた西瓜(スイカ)がある。他の作品にも西瓜が描かれていることは少なくないが、本作はちゃんと黒い種、白い種と描かれており、面白い。

女性らの干す着物、纏っている着物の柄のパターンの美しさに国貞のよさが詰まっている。彼の作品で描かれる衣装の柄は決してひとつのパターンに収まらず、必ず 2 種以上を用いてくる。

『春の虹蜺』

第2章の展示作品。歌川国芳による、うなぎに纏わる作品ということでの展示。団扇用に制作されたようだ。以前に上野のなんかしらのイベントで見たような気もしてきた。「手元のうなぎ、空には虹」という図がおもしろいということだが、今回は見事に感化されてしまった。おもしろい。

『東都宮戸川之圖』

これもうなぎに纏わる作品で同じく国芳だが、風景画である。近景の水場の青と遠景の空と山の青が美しいよね。本展、国芳の割とオーソドックスな浮世絵が多かったのはかなり嬉しい。水場にいる漁師はうなぎを捕っている。

宮戸川というのは何処なのかなと思ったが、ググると落語の演目が紹介される。Wikipedia を読むと、現在の隅田川は浅草周辺を指したということらしいが、定かではない。

このほかうなぎ料理屋の厨房の作品もあったが、どの作品だったか失念。映画《居眠り磐音》を観たときに登場したシーンを思い出した。こういう浮世絵作品が参照されているのだなぁと。

『十二月之内 弥生 足利絹手染乃紫』

国貞による海の幸、貝を拾う、潮干狩りの図である。このような潮干狩りの図は、国貞の作品としてはいくつも類作があるようだが、本作は見立絵である点に特徴がある、と思われる。

上記のリンク内の説明に詳しいが、右側の舟に乗ってポーズをとる男が光源氏であるらしい。しかし、本展ではそこは割とどうでもよい。この図でおもしろいのは、蛸や貝集めもそうなのだが、浜辺には蕎麦屋や団子屋の出店が点在しているところで、しかも蕎麦屋においては店主が自分の店の蕎麦を食べてるっぽい。

『名所江戸百景 びくにはし雪中』

これも有名な作品だろうか。広重です。左手前に描かれた「山くじら」という看板、その意味は詰まるところ獣肉だそう。ここいらに有名店があったらしい。原則的には禁止されていた食物ではあるが、冬には重宝されたとか。

隣に展示されていた『両国夕景一ツ目千金』には、擂り鉢で調理される鍋の具材と思しき皿には、どうみても肉っぽい食材が鎮座している。画そのものとしては、左手の看板の配置がエグく、構図が良すぎる。

というなかで上記のリンクを読んでいたら、本作が最初に制作されたタイミング-安政五年(1858)には広重はコレラで亡くなっており、本作は二代目の作品なのではという見当もあるらしい。へぇ。

まとめ

ほかにも何点かいいなと思った作品があったが手元に目録もなかったので記憶だよりに探すのが疲れた。気が向いたら追加するかもしらん。

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