頭脳警察のボーカルである PANTA のソロ以降の 5 枚目のアルバム『1980X』という作品がある。ユニットとしては PANTA&HAL のアルバムだ。本作のタイトルは昭和天皇の崩御とそのカウントダウンを裏テーマとしているらしい。たしか、渋谷慶一郎の書いたライナーノーツにそうあったと思う(2000年前後くらいに紙ジャケットで再発された版に入っていた)。PANTA の証言もどこかで読んだかもしれない。収録は、以下の 10 曲で、裏テーマと正しく一致するのは 3 曲目の「臨時ニュース」だ。

  1. トゥ・シューズ
  2. モータードライブ
  3. 臨時ニュース
  4. Audi 80
  5. オートバイ
  6. ルイーズ
  7. トリックスター
  8. キック・ザ・シティ
  9. IDカード
  10. ナイフ

表向き-というか本来のテーマは「東京」で、これは前作の『マラッカ』から地続きとなっている面もある。活気に支えられつつも昭和の終わりがにじり寄るような作品となっているのではないか。私は昭和をほとんど生きておらず、知ったかぶりだが。

私は7曲目の「トリックスター」が1番好きだ。「霧の降る街」というフレーズから始まる。もう最高じゃん。トリックスターがどういう人物なのかは不明だが、街の人たちは彼女を「星屑と間違える」らしい。よい曲です。PATNA は歌詞にて彼女に眠る場所を貸そうとするが、まぁそう上手くもいかないらしい。なんせ相手はトリックスターなんで。

次点で「モータードライブ」「ルイーズ」かな。前者はパパラッチか、あるいはストーカーでもあるかのような描写が続く-そう言うと、気持ち悪いけれども。その対象だが、これはトリックスターでもあるかもしれない。いずれにせよ対象の本当の孤独を知ってるのは、追っている俺だけだというのがミソなんだな。

後者のタイトルが示すルイーズという女性は、これはトリックスターの前身、あるいはモータードライブと同質だが、もっと距離が近い、近い距離にいる対象のようなところがある。「そのデジタルキックは時代のモデル」という歌詞の意味がわからない。ルイーズに「夜を蹴っ飛ばせ」と煽り立てるのは流石っす。

3 曲あげてみたが、結局のところ PANTA が得意とするところの、定まらない対女性のやや甘ったるい世界観が私の好みだということがハッキリしただけか。もちろん他の曲も好きだが、こうなってしまってはしかたない。Xデーというのも近いのかもなと思いながら、本作のことを思い出して記事を書いた。しかし、インターネット時代になったからか「臨時ニュース」というフレーズもあまり聞かないような気もする。

ついで、ではないが、このアルバムと前作『マラッカ』にはプロデューサーに鈴木慶一が入っている。私は詳しくないが「はちみつぱい」と「はっぴぃえんど」は同じ所属だったので、てっきりそれほど PANTA と関係があるわけではないと思っていたが、そうでもなかった。Billboard JAPAN の以下の記事(おそらく 2018年初出)を読むと、当時の様子や経緯がわかって楽しい。

そもそも鈴木慶一については《若女将は小学生》(2018)でも音楽プロデューサーをしていて驚いたのだが、そのときに経歴をみたら、さまざまなジャンルの作品の音楽を手がけていることを知った。ちょっとムーンライダーズを聴いてみようかなと思ったりしてね。

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