2018 年の夏頃だったか「バレットジャーナル」という手帳術、メモ術、アイデア、タスクの管理術みたいなテクニックを耳目にした。基本的な使い方などはググれば出てくるが、なんというかアテのない話だなと思って見ていた。今となっては完全に見当違いだとわかる疑問だが、「自分でノンブルを振る」「インデックスを設ける」といった作業が本当に必要なのか、可能なのかと疑った。そんなめんどくさいことできるか? という気持ちもあった。
その後、MdN から発刊された『シンプルなのに驚くほどうまくいく! バレットジャーナル活用術』を読む。この本を読んだ頃は、類書が 2 つあるかくらいで、その他にはムック本が既刊としてあったが既に店頭にはなく、取り寄せる気もなかった。MdN の本を読んで概略は掴めた気がしたし、悪くない方法だと思った。試してみたが、結論としては、やはりよく分からない、という経緯で挫折していた(利用したノートの判型が小さかったという点もよくなかった)。
そんな折、2019 年の春に『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』が発売された。このノート術の考案者、ライダー・キャロル氏による著作であり、いわば遅れてきた原典だ(元々、著者のウェブページには必要な情報はあるようだが)。バレットジャーナルの誕生の経緯、基本的な概念と使い方、活用法などが分かる。
しばらくは遠目に見ていただけだったが、ようやく夏頃に手に取った。やはり公式の情報は大事だということが実感され、バレットジャーナルの哲学が身に沁みた。実用的なこと以上に、著者の試行錯誤を通して達っせられた境地を体感できる、心地よい読書体験が得られた。
解決策は外部から入手するものではない
「解決策は外部から入手するものという思い込み」というフレーズが本書のどこかに出てくる。この本を読んでいて、もっとも心に響いた。言ってみれば本書で得た知識だって、インターネットで得た知識だって、それは参考にはなるが、直面している自分の問題には直接の関係はない。ごく自然で当たり前の発想ではあるが、疎かにしていたところであった。
紙のノートを使ったほうがいい理由
デジタルデバイスのメリット、デメリットについて細かくは触れないが、少なくとも記憶や思考については紙、手書きのほうがよさそうという研究結果などが揃いつつある。そういう前提のうえ、著者が紙のノートを使うことを推奨する理由のひとつに、刺激に対するフィードバックの間を作れる点を挙げている。ToDo やイベント、発想のメモを紙に残す、転記する作業のなかで振り返りが起こるという。まぁ、ディスプレイ上のトピックをドラッグ&ドロップしていても同じことができるんじゃね? という疑問が起こることは否定しないが、文字を手で起こすという行為の大切さは本書を読み進めると実感できるので、気になったら読んでみてほしい。
ダレたあとの再開ハードルが低い
前述の通り、読書体験としての本書の内容も気に入っているが、バレットジャーナルという手法もかなり気に入っていていて、適宜利用している。最後に、何がよいかという点を述べておこうと思う。
たとえば『ほぼ日手帳』だとかリフィル型の手帳、使いやすく工夫されたノートやスケジュール帳など、文具屋やそこらにはたくさんある。そういうノートを使いこなせる人や、使わないとスケジュール管理がままならないほどの生活の方は、それはそれでよいに決まっているし、また羨ましい。
一方で、私などの人間は、気を抜くと手帳を開くことも忘れるし、気力が湧かない日もある。そこまでスケジュールが目まぐるしく変化する仕事をしているわけでもないので、幸か不幸か日付や時間に厳しく頓着する必要もない。つまるところ、手帳のページやスケジュールが内発的にも環境的にも埋まらない日がよく発生するのである。
フォーマットのきっちり定まったページが空のまま置いていかれることの恐怖に耐えられない。「あぁ、最後に記入したのは 2 か月前だったか」みたいな間抜け感とそれに伴って発生する無能力感は、計り知れない負のエネルギーだ。これに対して、バレットジャーナルはかなり緩い。無駄になるのは見開きの半分 1 ページ分くらいのもので、2 か月分の無駄が犠牲になったページにそこまで反映されない。かなり心が救われる。
もうひとつ、バカにならないがノンブルを振ること、インデックスを作ることだ。冒頭で述べたように「そんなめんどうなことできるか」と最初は思っていたが、やり始めるとこれがおもしろくてクセになる。こういうノート法がなぜ今までなかったのかと疑問になるくらいに発明的だとすら感じる(なんかあったような気もする)。考えてみれば、目次や見出し、ノンブルの振られていない書籍など読めないではないか。日付でフォーマットされた手帳には縛られたくない。これは自分の思考のままの書籍になるのだ。あらゆる目的のノートに効くはずの根源的な秘訣が本書にはある。
使用するノートや筆記具について
著者公式のノートがロイヒトトゥルムから発売されているようだし、他メーカーからもほぼバレットジャーナル用にカスタマイズされたノートが発売されているようだ。和気文具の以下のページで端的にまとまっている。これらはドット入りの紙面で、ノンブルもあらかじめ振られている。
私は、MARK’S の EDiT シリーズの方眼ノート( B6 変型)を使っている。A5 サイズだとやや小さく、A4 だと大きい。これくらいがちょうどいい。ノンブルは自分で振っているが、上述の通り、それが楽しい。
ペンは好きなものを使えばいいと思うが、0.38 mmなど細めのほうが誤字などがあったときに対処しやすいし、雑に書いても判別しやすいので、そうしている。主に使っているのは STYLE FIT だ。マーカー等は適当に探そう。
かつてバレットジャーナルについて、検索をすると割とデコレーションに寄った話題が多かったが、著者も本書で書いている通り、このノート術の本質はそこにはない。あくまでシンプルであることが信条であって、その仕組みの根本はとてもロジカルでもある。雑で汚くてもいいのであった。
追記:20200117
昨日だか一昨日だか 「AccessNotebook」というノートの存在を知った。目次ページとノンブルが用意されており、PUR製本で閉じ開きしやすい。バレット・ジャーナル用のノートとしても使いやすそうで、メモしておきたい。
Last modified: 2020-01-17