世界は終わりに近づいたって、みんな個別に愛を求める|《レミニセンス/Reminiscence》

《レミニセンス/Reminiscence》を観た。クリストファー・ノーランの兄弟ジョナサン・ノーランが製作に関わっていることがプッシュされていた。監督のリサ・ジョイは、商業的な長編映画は初めてらしいが、アメリカの SF ドラマシリーズを大ヒットさせた手腕が買われたとのことだ。

近未来、海面上昇と戦争の影響で人間の居住可能地域はごく限られた範囲となり、いわゆる「陸」は一部の特権階級やら地主やらしか住めないらしく、一般以下の市民は堤防によって無理やり開拓されたエリアや半ば水没した都市、あるいは水上都市、バラックなどに暮らすようだ。マイアミ、ニューオリンズなどが舞台とされた。

水没した世界というと《ウォーターワールド》(1995)が浮かぶが、そこまで破滅的ではなく、パッと見た印象では《天気の子》(2019)のラストを思い出させられるような状況であった。同じような設定も珍しくはなかろうが、そんな感じだ。

気候変動で日中は暑すぎるので生活時間帯は夜間になっているらしいが、残り時間を過ごすような世界観で、そもそも社会がまともに成立しているようには見えず-少なくとも主人公を取り巻く生活の範囲では-なんとも苦い設定となっていた。

前置きが長い。

過去の記憶を操る装置をもつ主人公らは、思い出体験マシーンとしてそれを商売に使いつつ、警察の捜査に協力もしている。そのような経緯のなか、物語は「鍵を失くした」と営業終了後に飛び込んできた女性との出会い、ロマンス、喪失、そして背後で進行していた事態の真相の究明を描く。

オルフェウス神話

割と最近に鑑賞した《燃ゆる女の肖像》 でも効果的に引用されていたが、オルフェウス神話が話中で活用される。同時に、もともとの結末を「幸せなままの物語」として伝えるために主人公はヒロインに対してウソの展開を語っていた。

死んでいる妻との幸せを取り戻すために、ある意味で彼女の本当の素顔を隠したままにして死の世界から妻を救い出そうというオルフェウスの態度は、ある程度まで本作の主人公の辿った経緯をそこに重ねることはできようし、脚本もそれを狙って構成されているのは間違いない。

バラック群島で悪徳警官とのバトルの末に、彼女の幻影に出会うシーンは印象的な箇所のひとつだが、このシーンが示唆していることは多いと、鑑賞後に強く実感した。

とはいえ、前例として挙げた《燃える女の肖像》が、オルフェウス神話の要点を効果的に反映させたのに比して、本作は「言われてみればこうだったな」というような程度に落ち着いてしまったのは残念で、「なるほどね!」というハマった感もない。

狂気と記憶と二度目の邂逅

簾のような天幕が円形のスクリーン上に垂れており、ここに光をあてて 3D 映像を作り出す。このシステム自体はいちおう実在するらしい。

記憶なり夢の中からどうやって映像化するかまでは未知だが、主人公のような誘導技師がおり、一種の催眠術のような類とイメージすればいいのだろうが、深層意識下の記憶の描く風景を再現する。

結末を決定づけるシーンだが、ヒロインは半ば狂気のなか-薬を打たれているから、正面にいる悪徳警官の記憶を、いずれ主人公が探ることを予期し、経緯のあらましと愛を伝えて残した。

非常にバカバカしいように思うが、しかし、見逃しがたい異常なすれ違いがここで発生する。主人公の替え玉のようにそこに立ち、本来は彼女と相対していたはずの悪徳警官は、彼女の真正の愛の告白を、自分が受けているワケでもないのに正面から吸収してしまう結果になった。

物語のほとんどを通して、主人公にとってのファムファタールであったようにみえたヒロインは、この時点で悪徳警官にとっての其れになっていた。これが痛快というか、なんというか。

3D 映像の幻想を眺める主人公は、立ち尽くす悪徳警官の座標に移動し、ヒロインからの最期のメッセージを受け取る。倒錯が過ぎる!! めちゃくちゃ面白い手口ではあるんだけど、悪趣味というか、一歩間違えるとイヤな話なので-もともと全然イヤな話なのだが、感心するというか引いてしまうんだよね。

主人公が、他人の脳をバーンアウトさせてしまって、罰として夢の中にいることになったような結末だったが、アレはよくわからんな。仕事のパートナーの女性の将来との対比としたって、なんだかなぁ。

大枠はおもしろかったが、大枠くらいだったというか。

中国系のチンピラの頭領のキャラクターが憎めず、彼はよかったな。