ジョーダン・ピール監督の最新作《NOPE》を観た。ホラー映画なのか何なのかよくわからん、というのは前作までと同じか。だが《ゲット・アウト》を観ていない私に本作を語る権利があるのかどうかは疑問ではある。
また聖書の引用から始まる。ズルいのである。まぁ気になる人は、これを使ってなんかやったらいい。
スタジオでチンパンジーが暴走し、誰かが倒れている。カメラの視線は現場の人物を示唆するが、そこでは明らかにはならない。チンパンジーがカメラの視線に気づくと、このシーンはそれで終わる。
主人公:OJの父が死ぬ。頭に金属片が飛び込んできたらしい。コイン様のそれであったが、それがなんだかはよくわからない。牧場は経営難となり、管理する馬を徐々に減らしていく。
ところである晩、逃げた馬が空中で喰われた。どうする。
隣家の韓国系アメリカ人:ジュープが経営する西部劇なテーマパークでは、主人公の牧場から馬を購入している。なんなら彼は牧場ごと買い取りたいという。しかし、売られた馬が、テーマパーク内に居る様子はなかった。
どうして主人公は気づかなかったのか?
このジュープこそが冒頭の視線の主で、暴走するチンパンジーと最期に心を通わせる可能性のあった人物であり、そのこと自体が彼の心を壊している皮肉がある。ところでチンパンジーの暴走当時に最大の被害に遭ったと思しき女性が、彼の開催するショーに来訪していた。なぜだ?
部分的に皮下組織が剥き出しのままのようにみえた彼女だが、賠償金かなにかで隠遁生活を送っているのだろうか。どういう誘いに惹かれて、ジュープのショーを見にきたのか。これがわからない。まぁいいか。
ところで、チンパンジーが暴走した理由だが、そんなものを探しても仕方がない。だが、描写として、彼の誕生日だったらしく、子役のジュープと少女はプレゼントを用意していた。女性のプレゼントは大きな箱に入った、たくさんの風船だった。これにはチンパンジーとはいえ、TV ショーの演出とはいえキレるでしょ、という気はする。風船て。
まぁ、しかし、チンパンジーが暴走するエピソードは、空中で人間らを捕食する生物と人間らの関係、あるいはジュープ本人との関係、はては黒人、黄色人らの立場などを反映しているようではあるが、このエピソード自体が浮いて見えることも確かで、煮え切らない。
やはりプレゼントが風船であったことに問題提起があるのではないか。しかし、そのたくさんの風船、そして荒野に広がるバルーン式のトーテム、あるいは国旗が彩られたロープというアイテムが、それぞれ微妙にシンクロしているのは流石だなと感じる。
で、その捕食者を撮影するということで、ホームセンター従業員:エンジェルや謎の撮影者:ホルストとかと協力することになる。ホルストの編集している映像、《吸血鬼ノスフェラトゥ》でチラチラと入っていたカットに似ていた。
捕食者の特性を生かして、撮影を試みる。途中で撮影に成功しているように思えるが、少なくともホルストは満足していない。しかし、みんな混乱したのか、最終的には、なんかグチャグチャになる。結局は OJ の妹:Mが撃退と撮影に成功する。
ちなみに捕食者が最期になったのも、やはりバルーンなんであった。
捕食者の本体のフォルムも終盤で大方明らかになるが、ぶっちゃけエヴァンゲリオンの使徒のようで、AKIRAのオマージュといい、笑うしかない。
だが、捕食といってもそれが食事なのかもわからないし、捕食者が生物として成体であるかもわからない。あるいは、チンパンジーのように、なんらかの理由で暴走しているだけだったのかもしれない。
さて、作品が暗示してること、暗示したいことは沢山あるようだったが、何が起きて何が解決したかといえば、それも何もわからない。まぁ、そういうもんか。そういう存在の相手をした、そういう記録ということだ。
しばし考えたが、「本当の主人公はジュープ」説を拡げると、それなりに面白いのではないか。OJにとっては馬をおとりにした悪い奴だし、メインキャストの割にはしょうもない結末を迎える彼だが、彼の試みは本当にショーの見世物として捕食者を晒すことだけだったのか?
チンパンジーとのラストシーンを思い返すとそうとも言えない可能性も言及することくらいはできそうかなとは思う。
ところで、撮影だが、実際にロサンゼルスを北に抜ける地点にある砂漠が舞台のようだ。冒頭、ハリウッドからの帰路で看板にあったが “Agua Dulce” という地名にあたる地域だ。仮名読みだと「アグア・ダルシー」や「アグア・ドゥルセ」などか。
小耳に挟んだので報道をちょっと探してみたけれど、夜景のシーンは実は昼中に撮影されたらしい。赤外線を通すことでカメラのなかでは暗い空間が演出されるとか。以下の記事でそれについてだけ説明されていた。
あとは以下の記事の一連なんかを読むと、いろいろとわかりやすかった。まぁ、流し用味程度の読解力だけど。
本作、《未知との遭遇》や《ジョーズ》の類似性を指摘されるようだが、個人的にはヒッチコックの《鳥》が思い出される。あの映画ほど不条理な作品もなかろうてな。
Last modified: 2022-09-08