ヒッチコックマラソンです。『舞台恐怖症』《Stage Fright》を観た。原作には小説があるらしいが、どれくらい原作の内容に忠実なのかは不明だ。

原題の “Stage Fright” という単語自体には「舞台負け、気おくれ、アガリ症」などの日本語訳があてられることが常のようだが、「舞台恐怖症」はその点、この単語だけで本作のことだと分かりやすくていいね。カッコよくはないし、内容に忠実でもないけど。

序盤の演出で面白いなと思ったのは、ジョナサンがシャーロット邸に侵入するシーンでエントランスの扉を閉じる動作と閉じた扉の音が入る一方で、カメラはそのまま追従した箇所だ。ジョナサンの挙動はフェイク、扉の音も別に入れているというトリックだろうけど、面白い。

ヒロインは刑事のスミスと段々と恋に落ちていくロマンスということだけど、車中でのラブロマンスから一転して緊張の連続するクライマックスまで伸びていくのは見事だよな。ヒロインの父親の立ち回りとその俳優の演技もよい。俳優はアラステア・シムという方のようだが、味があるね。

ヒロインのイヴと悪ヒロインのシャーロットは、どちらもそこそこよかったが、シャーロットのメイドのネイリーのインパクトが割と強くて、こちらの印象もそこそこ強い。この次の作品『見知らぬ乗客』でもそうだが、この 2 作ではメガの女性に割とネガティブな印象が割り振られている点も興味深いかな。

クライマックスのジョナサンの見せる表情も良いものだったが、作品全体としてはヒッチコックマラソンで見てきた作品でもっともチグハグな印象を受けた。ヒロインのイヴの行動の原動力となったジョナサンに対する真心めいた心情のバックボーンが不明なので、結局はイヴの空回りに過ぎなかったというイメージが強い。

クライマックスで煙草をふかしたシャーロットの表情が執拗な雰囲気でクローズ・アップで演出されたのと、ジョナサンの最期を飾るにふさわしい慌ただしいカメラワークは面白かったかな。しかし、サスペンスとしてこのネタは、叙述トリックで騙されたミステリーみたいな白々しさも否定しづらいが、盲点を突かれた感も否めないので、なんともはや。ジョナサンはよくやったよ。

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