『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだ。

3年前の Kindle セールで購入しており、ずっと積んでいた。皆がおもしろいと言うし、知り合いにも勧められたが、小説を読むエネルギーが溜まらなかった。たまたま今回、読書のローテーションの巡りのうえで、たまにはフィクションをと目に留まり、ようやく読んだ次第だ。映画公開が正式に決まったんだって?

おもしろい作品ですね。

まず、記憶喪失状態から過去の回想を挟んで主人公、ひいては地球と宇宙の巻き込まれている事態を明らかにしていくスタイルがいい。似たような例の作品があまり思い浮かばないが、アメリカの SF って感じはする…。あー、いや待って、読んでいるとき少しだけ頭をよぎった『アヴァルト』(光永康則)には、冒頭あたりに少し、こんな要素があったな(こちらも好きな作品です)。

とはいえだ、コールドスリープではなくて、あくまで昏睡状態というのが、現代SF的なミソなのかなとは考える。どうなんだろう。ま、いずれにせよ、記憶があいまいな状態で、しかもそれが終盤にかけてまでアクセントになっているのはビックリだった。この叙述の妙は、なるほどね! ってなりますね。

ところで、トラブルまみれの宇宙船をクルー1人(?)でやりきるっていう作品、もちろん著者の『火星の人』もそうだが、他にどんな作品があるかね。あるいは、往年のSFファンには定番だろうけれど、『たったひとつの冴えたやりかた』は思いあたった。この作品との共通点で言うと、人類の滅亡を異星のパートナー(?)と乗り切るという点も近く(て遠いが)、熱い展開ですね。

ひとつ、やや拍子抜けしたというか、なぜアストロホニャララは、或る星では勢いを一定にして均衡するのかというオチは、言われてみればそうか! ではあったが、あまりにも瞬間に解答が提出されるので、逆にビックリした。もう少しツッコむと、ほんならアストロホニャララをヘニョヘニョするホニャララをヘニョヘニョする存在も考慮する必要はないの? みたいな疑問は浮かんだ。

キリがない。それが、バイオームだ。

また、刊行された当初、作中の仕掛けがプラモデル・模型っぽいという評が多く、へぇーと思っていた記憶がある。読んでいる最中にそのことを反芻し、読み終わり、この感想を書きながら気づいたが、要するに宇宙船の仕組みのことだったなと気づく(たしかにそう言われていた気がする)。そもそも、本編前の冒頭に宇宙船の構造とギミックの図解が載っている。これは原典もそうなのかしら?

文章ではエンジニア心の足りずに何が起きているのかのイメージが追いつかない一般読者諸氏のために気遣われたこの図解を携えていれば、主人公の宇宙船がどういう構造で、何のためにこのような動きをし、どのように問題を解決していくのかがわかりやすい、という仕組みだ。この部分だけ切り出すと、どういうジャンルのSFなんだろうな。船体構造(ギミック)SFというか。

本作の主要登場人物って、およそ3名と数えて異論はないと思う。計画のリーダーであるストラットは一貫して冷徹にプロジェクトを邁進させることのみに神経を集中していて、そのことは殊更に強く描かれている。相対して、なぜか秘書か助手、あるいは副リーダーのように主人公は付き従っているわけで、作中人物だけでなく読者だって、彼らの不思議な関係は気になるに決まっている(話は逆だろう)。

彼女がようやく人間としての弱さを少しだけ晒すのは、それこそ至上に非情な判断を下す瞬間であって、それは懺悔みたいなものだったのだと読んだ。まぁ、それ以外に無いでしょう。同情を求めているワケでも、理解を求めていたワケでもない。しかし、そこまでに及んで、主人公が宇宙船の中で抱く彼女に対するある種のパッションとその描写が、尻切れトンボのようになったのは、少々残念ではあった。

まぁ、仕方ないか。

主人公の彼女へのパッションがうやむやになった主な理由は、ロッキーにあって、そう、この人物こそが裏主人公である。というか、主人公と彼(?)とは、表裏一体と言える。このへんの背景設定は、かの『三体』シリーズでイメージされるような激烈辛口な宇宙観とはガラッと異なり、最終的に人類は兄弟姉妹を守るために広大な宇宙のなかで俺達はギリギリまで協力するんや! となる。お好みはどちらか?

とにかく熱いのだ。週刊少年ジャンプ的かもしれない。

まぁね、私は心配だったんですよ。『火星の人』でのクライマックスあたりでも似たようなことを思ったが、この著者の作品、クライマックス後の余話にあまり多くのページを割かず(無いとは言っていない)、ギリギリまでなんかしら冒険している。もうページが残っていないのに、である。今回も、ロッキーがそのまま終わる(どちらの意味でも)ことはないよなぁと感じつつ、もうページ数もないし、まさかの投げっぱなしかと思われされながらも手が止まらなかったのである。

Help, I need somebody.
Help, not just anybody.

ってなもんだ。誰かの助けは必要だけど、それは貴方じゃなきゃ、ダメなんだな。
この世で、君を助けられるのは、貴方しかいないもんな。

最後に。そういえば、宇宙開発関連で今日日 スペースX (それを示唆する民間宇宙会社)がまったく出てこないのも不自然やんなと読んでいたら、一応、一か所だけ出てきましたね。やっぱり作者も意識はしているに決まっているな、となりました。まる。

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