《アンテベラム/Antebellum》を観た。2020年の作品らしいが、国内では本年 11 月に上映開始された。題字の「Antebellum」は「戦前」を意味するらしいが、USでは「南北戦争前」を意味することが多いらしい(Wikipedia拠)。

本作は割とネタバレが問題になる作風なので、いつもは書かないが、鑑賞しようとしている人は読まないようにしてほしい。

もう言うまでも無いが、黒人および女性への人種差別と奴隷の歴史的な問題を扱った作品で、それがエンターテインメントになっている。公式などにはスリラーとあったと記憶しているが、違和感はない。

長いワンカットで映画が始まる。ある集落かしらぬが、少人数の管理者側の白人たちとなにやら下働きさせられている黒人たちの景色が延々と映される。集落の外れまで進んでいくと、なにやら騒ぎが起きている。逃亡奴隷が捕まっていた。

結論から言って-もちろん鑑賞後の放言となってしまうが、この集落が妙に箱庭染みていて、作り物臭かったのは、まさにその通りではあった。綿花畑もお庭のような面積しかなく、見張りのような将校のようなようわからん男たちも騎馬したまま畑を割ってくる。嘘やん。

後半だったと思うが、集めたそれを燃やしているところとか笑うしかないよね。

気づく人にはこの世界がまやかしであることは明らかだろう。正直に言って私はギリギリまで確信はできなかった。

新しい奴隷の候補として送られてきた娘の発言も、よくよく振り返ってみれば当時にしてはあり得ないのだ。

そういう意味で、いろいろと突き詰めていくと本作が、どれだけ誠実かは難しい。というか、一般的には誠実な作品はいえなそう。スリラーであり、エンターテインメントではあるけれど。

場面転換と画面の美しさは好きだ。現代におけるヴェロニカの活躍は、どれだけ本国の先進的な黒人女性のオピニオンリーダーの実際を再現しているのかはハッキリわからないが、それなりには何ともそれらしいとは感じた。

ちなみに、彼女の寝起きのシーンで乗馬で騎馬しているカットが入っているのは、丁寧ではあった。

話の全体が統合されてからの結末にかけての展開は、もうオチの回収が残っただけだし、大した展開を期待できる組み合わせでもないので、淡々とことは進んでいったように思う。

脱出の最期で「Antebellum」を経る過程を馬を走らせて逃げる彼女にあのようにオーバーラップさせたのは、賛否両論あるとは思うけれど、それらしくするのは成功していたとは思うので、まぁ上手いな、とは。

細々としたことなど

全体とは別にいくつかのポイントっぽいのだけ列記しておく。

攫われた土地と集落のあった土地

攫われたのはルイジアナのニューオリンズで間違いないようだが、集落があったのはどこだったのかね。作中で登場した地図や最後の看板で判断できるような気もするが、定かではない。けど、Wikipedia の説明欄にはルイジアナと書いてあるから、そうなんだろうな。

事実確認しないで書くけど、南北戦争前後って大方は北部から徐々に黒人奴隷制度が無くなっていってたハズで、ルイジアナのニューオリンズは、このときはどんなだったんだっけ。いや、歴史的な事実に即しているなら文句も無いし、ワザと脚本が歴史的には完全に誤りである状況を演出してても文句はないのだが、こういうことを丁寧に解くことに、それなりに意義はありそう。誰かがやっていそうだけれど。

エデンとは

ヴェロニカの現地での名前だが、倒錯もここまで酷いと笑ってしまうよね。デントン上院議員(だっけ?)にとって、集落は理想郷であり、その象徴がヴェロニカであるわけだが、同時に彼女が禁断の果実でもあったみたいな。単純ではある。

ホテルのサービスとディナー

ところどころで差別的な対応がなされる状況があるが、これもリアルではあるのだろう。体格のいい友人、すっごい嫌味な役だったが、キャラが立っている。

本作の謎っぽいひとつに、この友人にカクテルを持ってくる男がこき下ろされるシーンがあるのだが、何のためのシーンだったのか、これがよくわからない。

エレベーターの少女

鑑賞者をミスリードさせる以上の目的があったのか、このシーンも謎である。んー、あれ、冒頭で奴隷に名前を与えていたのもこの子だったのだっけ? まぁ、だとしても意味が分からない。

客室への侵入とハウスキーパー

ヴェロニカ誘拐前に、彼女の部屋に侵入したエリザベス(?)の目的もよくわからないのだが、エリザベスに従って部屋を開けたっぽいハウスキーパーもよくわからない。それなりに高級そうなホテルだが、そんなこと可能なのか?

っていうかハウスキーパーの性別がよくわからないのだが、画面に映った足元が、エリザベスもハウスキーパーも不気味で、何なら本作で 1 番好きなシーンまである。

まとめ

疑問点みたいなのを並べてくと、そんなにピタッと出来のよい作品でもないんだけど-そもそも現代社会でこんなん可能なのかみたいな話でもあるワケで-、画面はそれなりに決まっていて楽しめたので、個人的にはそれはそれとして何となく許せた。

また、本作の背景となった主に歴史的な事実やその描写などについて、既知の人間から見た本作の箱庭集落の酔狂さや奇矯さ、ズレのような設定や振る舞い(あるいはズレそのもの)も、対してそれらについて無知の人間には、それなりにもっともらしい世界(過去の現実)にも見えるようにはなっているハズで-でなければ本作のスリラーさなどそもそも否定される-、だとすれば、この認識のギャップを作品や製作者たちが狙っているとも考えられる。

としたときに、その狙いの先を想像してみると、やっぱり本作は-前言撤回して-それなりによく出来ていると言えるのではないのかしら、とかね。

ついでに、ざっくり《ザ・ハント/HUNT》っぽいなとは見ながら思ったが、あちらのほうがアクションや残虐性が派手で構成の妙も効いていた気がする。その分だけスリラーとして分がいい気がする。

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