《くちびるに歌を》を観た。三木孝浩監督の作品は初めて見た。直近だと《夏への扉 -キミのいる未来へ-》か。なるほどねぇ-特に含みはない。本作、長崎の五島列島が舞台ということで『坂道のアポロン』も監督しそうだなぁなどと思いながら眺めていた。調べてみたら、やっぱり監督してるじゃん。

監督本人は徳島出身だということだが、島々が点在する地域というところでは長崎と徳島には近いところがあるのだろうか。どちらにも行けたことがない。一生のうちに行ってみたい土地ではある。

原作は乙一こと中田永一で-逆か?、彼の作品も読んだことがないので物語の雰囲気などについても、完全に手探りだった。彼は福岡県田主丸町(現:久留米市)出身ということらしく、地図を眺めると内湾の対岸が長崎県だ。土地勘があるのだろう。

ところで、小説のモチーフとなったらしい根本のアンジェラ・アキは監督と同じ徳島出身らしいので、この辺でいろいろな縁があるのだなと推察される。

さて、青春映画ということだが、登場人物の背景は割と重い。婚約者を亡くしたピアニスト、失踪したクズの父に母を亡くした少女、障害を持つ兄がいたから自分が生まれたと自覚する少年など。ひとつの映画作品で扱うにはテーマが多いな、となる。

重いテーマばかりという感触に反して、作品の雰囲気は青春映画然として、フワッとサラッとした空気を中心に流れていく。島国なりの海の湿り気と潮っぽさもある。決して悪くはないのだが 132 分が、やや間延びした印象だったのは何故なのかな。

彼らの抱える問題も「これで解決」という類ではないので、それぞれがそれなりに折り合いを見つけて、ようようとやっていくという雰囲気で終わっていく。特には、少年少女の抱える事情をピアニストの先生が彼女なりに消化して、自らを前進させる原動力としたという演出は、控えめながら上手かったな。

それぞれの事情や感情の対立も、描かれはするのだが、その解消も特に際立った激突とはならないので、ネガティブな表現を使えば「山が見えない」のだが、これも狙ってのことだろうからなぁという感想に落ち着く。

原作を読んでいなくても楽しめたと言えばそうなのだが、原作既読向けに仕掛けられた演出も少なくないのだろうか。たとえば、教会の役割は、彼女たちにとって特別な存在であろうと想像できる以上には、重要さがほとんどわからなかった。彼女らはクリスチャンなのだろうか。

仲村ナズナがひとりで教会を訪れ、祭壇へ向かうシーンは本作で 1 番こだわりがあるのかなとは。画面のトーンが少し変わる。クライマックスの合唱シーンで生じたハイライトでも映ったが、全体の中での違和感が大きい。

ピアニストは代理教師が終わったのか、あるいはピアノを続ける覚悟が固まったからか、クライマックスで故郷を去るようだが、そのへんの詳細を明示しないのも本作らしい。

あまりクローズアップされることはなかったが、とにかく海がきれいだ。

ところで学校? 合唱部? のスローガン、そして本作のタイトルでもある「くちびるに歌を」というフレーズは、なにかしら由来があるのだろうか。パッと調べただけだと何もわからん。

Comments are closed.

Close Search Window