《サマーフィルムにのって》を観る。知人に薦められてなかったら見ていなかったかもしれない。感謝します。情報はほぼ無しで鑑賞したけれど、SF 要素があることは知っていた。これも後述するが、一応は問題ない。公式が種明かししている。キャッチフレーズとしては「恋×友情×時代劇×SF」だそうだ。

具体的に「ここがいい!」というオススメポイントは特に見つかってないのだが、今夏の映画としては何だかんだで 1 番の体験だったような。なんというか「こういう映画を見てもいい」という鑑賞者の懐の深さを滋養すると言っていいのか、味のある作品というか、諸々含めてウェルメイドな青春映画なんじゃないか。

作中では映画部の作品のテーマでもあり、あらためて本作品の根幹でもあるが、あんまり前衛化しないというかクドイ描かれ方はしていない。青春にとって「恋」は前提という共通認識のうえでのこの扱いなのか、逆説的にはアンチテーゼめいているのか、その両方かもしれない。

とはいえ、主人公のハダシ、親友らしきビート板、ブルーハワイの女子 3 人がそれぞれの恋(のようなものを含めて)を経過していく過程は見事だった。特にブルーハワイのギャップがいい。

友情

仲良し女子 3 人組と急造のスタッフたち、あるいはライバルの映画部、それぞれの関係性もエンタメとしての描写としての心地よさ、なにより気楽さが際立っている。後腐れを予感させる部分すらないし、それぞれが必要十分な役割をこなしている。

やはりテーマの配合が本当に上手い。

あえて不満というか、結末がああいう風だったので、いわゆる開かれたエンディングという類だと言えそうだが、スパっとしていて、想像の余韻を残さない。まさしくひと夏の青春だということか。後味があるような、無いような、絶妙な味わい。

時代劇

この映画としては最大の工夫点だろうか。ハダシが好きなのは初期の時代劇で、それは勝新太郎やら三船敏郎やらなので、もっとも古くて渋い類だろう。眠狂四郎がちょろっと出てきたけど-これは少し時代が下るような?

凛太郎の時代における映画のありように対して、現代における時代劇のありようが似た状況だと捉えるのであれば、監督のテーマとしては時代劇の危機というか、そういった意気込みもあったのだろうか。

『るろうに剣心』の劇場版シリーズを時代劇と見做していいのかは知らぬが、私が最後に見たのは《居眠り磐音》だったかな。これが 2019 年だと思うが、それ以降でめぼしい時代劇って何かあったかな。

これぞ時代劇といった大立ち回りが、ハダシの映画への愛、時代劇への愛、あるいは恋への決着をつけるために活用される。まぁ、そうなるよね。見たときはビックリしたけど。今になって思えば、予定調和だったろう。

SF

これも割と道具然として、役割がハッキリしている。このあっさりさは、使われ方としては《ドロステの果ての僕ら》に似ているというか、「そういえば、不思議」とでもいうか。どうしても《君の名は。》以後、気になってしまうよな。今回は出会い頭の驚きを体験できなかったが、人によっては巫山戯るなと感じても不思議はないかもな。

『時をかける少女』のオマージュということもあるらしいが、初恋らしきそれは永遠に断絶するという線と、それが作品制作に昇華されるという線と、制作した作品はホニャララという如何にも大変な状況を、この道具で実現してくる。

SF はヒドい。SF は便利だ。

あれこれ

どなたかの「時代劇じゃなくても演目はなりたったのでは」という意見を目にして、確かになとも思う。時代劇を選んだ理由は、監督の趣味を超えるものはあったのだろうね。

雑に考えるに、映画が好きな女子高校生と、あくまでも女子高校生の一般的なイメージにもっともマッチしづらそうなジャンルを想像してみると、時代劇以上に何かあるだろうか。やっぱり時代劇が収まりがよさそうだな、とは感じる。

主演の伊藤万理華は、もともと乃木坂46のメンバーだったとか。ちゃんと見たのははじめてだった。現時点で 25 歳ということだが、学生の若々しさをうまく表現していた。ブサイクな表情になるときとフワッとした表情になるときのギャップが、うまくてビックリしますね。

大人が出てこない。大人を排している。知人が《竜とそばかすの姫》について「何なら大人が出てこなければよかった」と感想を漏らしていたことが思い出された。本作のような完全娯楽でこそ、このような割り切りが利くのだなと。

殺陣の撮影に使われていたお寺だが、他の撮影箇所もの含めて足利市が使われていたようだし、エンドクレジットで目にした寺名に間違いがなければ、鑁阿寺だろうか。近年に訪れたことがあったので、見ながらなんとなくここだろうと思ったが、当たっていたようだ。そうなると作中で登場した海は茨城のほうだろうか。

最後に印象的なシーンを挙げておきたい。

なんとなく川に飛び込む箇所が印象深かった。あの川、そこまで水深なさそうだし、特別に身体を張る必要もないだろうから、トリックなのかもしれない。何かの作品のオマージュだったりするのだろうか。こういう突飛さを差し込んでくるの嫌いじゃない。

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