祖国を愛すは無限のチカラよ|《ナポレオン/ Napoléon》

《ナポレオン/ Napoléon》 を観た。こちらは元々は 1927 年、フランスはアベル・ガンス監督の作品だ。このマラソン企画の範囲でいえば《メトロポリス》(1927)と同時期の作品ということになる。前回の《ドクトル・マブゼ》(1922)も見やすい状態だったことを振り返ると、ちゃんとしたディスクなら《メトロポリス》もかなり綺麗な状態で鑑賞できるのかしら。余談です。

というわけで、スコセッシおすすめ外国映画マラソンの 4 作目です。

Wikipedia の説明によると監督は、第一次大戦中からはプロパガンダ映画の製作に携わったらしい。本作もナポレオンを軸にした国威掲揚作品とはいえそうだけれど、プロパガンダ映画とは言えるのだろうか。どうなんだろう。

今回は、膨大な原作フィルム(散逸した状態からかき集められた)をフランシス・コッポラが再編集して 1982 年に公開した版(240 分)を DVD で鑑賞した。公開当時は日本にも特別上映が来たらしく、その際は生演奏で劇版がついたとのことだ。

前置きが長くなった。話としては、ナポレオンの少年期くらいの雪合戦のエピソード、1792 年頃に実家のあるコルシカ島からの脱出と翌年におけるトゥーロン攻囲戦-ここまでが第一部、第二部は彼の恋愛模様と 1976 年頃のイタリア遠征が物語の軸といえる。ちょいちょい当時のフランス史が分からんと少しばかり付いていきづらい気はするが、致命的ではなかった。というわけで、大筋についてはこれくらいだ。

フィルムの色味で攻めていけ

映写時のライトなのかフィルムそのものの色味なのかよく分からないが、いわゆるモノクロ(白黒)の画面はほとんどなくて、青みがかっていたり、赤だったり、ピンクだったりする。緑はあったかな。つまり、そうすることで場面に違いを生み出している。言われてみればな手法ではある。

たとえば室内でのシーンはほとんど暖色の橙の映り方になる。議会などの激情的なシーンだと、ここに赤みが増す。パーティーなどの色気のあるシーンでは、ピンクになっていた。一方の屋外は、青色系が多い。これは時間帯であったり、海に対応していることが多いようだ。早朝だったら空気は青っぽいし、そもそも海は青い。ついでに、寒いシーンも青っぽい。

上記以外は、いわゆるモノクロなシーンとなる。白昼とかが多いのかな。

三台のカメラ、映写機を酷使する

第二部:物語の終盤に駆使される超絶撮影テクニックがあった。あんまり説明するのも野暮なので簡潔にしたいが、つまり疑似的にパノラマを作り出す。ものすごい根性で、監督の映像へのこだわりが身に染みる。イタリアに進軍する軍隊と指揮するナポレオンを描くが、遠景で部隊全軍の動きと岩山、その先にある肥沃な大地を見せたいわけだ。これは初見ではあっけにとられる。

つまり 3 台のカメラを使うのだが、そのうち中央だけをナポレオンのクローズアップにするということもやってのける。私個人の体験としては、小休憩を挟みつつではあるが 3 時間以上も画面を眺めてきた最後にこの映像を見せられると、疲れのなか生じる達成感が半端ではなかった。

なお、ここでもフィルムの色味を使ったトリックも登場する。伊達ではない。

ところで、このシーンの遠景の撮り方なんかは私が言うまでもないのだけれど、さまざまな撮影者に影響を与えているのではないかな。パノラマへの挑戦が先に見えてしまうので見落としそうになったけど、遠景の映し方がとてもきれい。

コルシカ島から脱出せよ

本作でもっとも楽しかったエピソードとして触れたい。実家のあるコルシカ島が、フランスその他のどの国家に属すべきかで騒動になったらしい。そいで、ナポレオンは目の上のたんこぶっぽい存在だので消されそうになり、這々の体で島から離脱する。

離脱の最中、市場のようなエリアで「オラが郷はスペインだ、やれイタリアだ、イギリスだ」と皆が思い思いに騒ぐなかで隠密行動中だったはずのナポレオンは「フランスやがっ!」と叫んで姿を顕すと、みんながびっくり仰天する。ところが直後に彼は場を支配してしまうのであった。

その場にいた民衆のうち、特に女性たちはおそらく出自別に衣装やら化粧やらが区別されているのだが、どの女性たちもそれは美してくて、笑ってしまう。いや、美しいからいいのだけれど。まぁ、おもしろい。

次の段となるイギリス方の偉い人たちから馬で逃げる逃走と追跡の劇は、これもまた遠景は見事だし、騎馬の撮影も半端ないですね。ヒッチコックの《マーニー》や黒澤明の《七人の侍》の類いよりもよっぽどエキサイティングにすら思えるシーンも少なくない。後半も似たようなシーンがあったが、これはすごい。

最終的には、ある浜から小舟に乗り換えてフランス本土を目指すナポレオンだが、この航海もやたらとすごい。こんなん 1920 年代に作れるのかぁ。最後のほうで漂流っぽくなるシーンがあるのだが、波高い海を漂う小舟を、こんなんどれだけ狙って撮れるのかという見事なカットで、とにかく海が美しい。必見とすらいいたい。

享楽的なピンクのシーンがある

ロベスピエールを代表とした極端な恐怖政治が終わり、ナポレオンが政府に見出されたあたりで、粛清の犠牲者たちの近縁者が集うパーティーが描かれる。

ナポレオンは、このパーティーの乱痴気騒ぎをを堕落と断じてキレる。彼の性格を描写する狙いというか、笑いどころでもあるのだが、このパーティーのその享楽的な空気の演出ががすごい。

先ほど述べたが、このシーンはフィルムがピンク様になる。踊り子たちの衣装もかなり際どい。なんならクルクルと踊り回るシーンではバストが転げている。フランス映画っぽいなというのは、そうなのだけれども、この如何にもなシーンも必見だ。はっちゃけている。もうね、何でも映したるでという監督の情熱が画面越しに伝わってくる。

しかしそれに比べて、ナポレオン自身が恋しているシーンは、子供たちと遊びに興じている箇所を覗いては、ほとんど面白味を感じなかったのも興味深い。なんだか申し訳ないけれど。

その他

土砂降りのなかで展開されるトゥーロン攻囲戦の描写の周辺には特に《七人の侍》が目指した表現があった気がする。敵味方の乱れた戦場、泥臭い格闘、 積み上がる亡骸たち、第一部の後半を占めるこの戦闘-悪く言えば何が起きているのかほぼ不明なのだが、見応えがありすぎる。

ところで、あまり調べられていないが、黒澤明がアベル・ガンスを敬愛していたという話はチラリと目にしたのだが、特に本作は 1920 年代当時、ごくごく小さい範囲でしか日本では鑑賞できなかったらしいし、その後はほとんど鑑賞できなかったようだ。黒澤明がいつ鑑賞できたのか、何か資料はあるのだろうか。まぁいいや。

本記事では、以下の記事などが参考になった。