いつだったか、まだ寒い季節に『落下の解剖学』を観た。

なんか偉い賞をとったらしいが、個人的には割とどうでもよかった。先行上映会にいったひとたちの評判がやたらとよかったので、そっちをアテにして行ったが、率直に言ってこれがよくなかった。今後は気をつけたい。そもそも、「法廷劇」だとか「解剖学」だとかいったキーワードがほとんどミスリードであるように感じる。

言ってね、ちょっと眠くて、おそらくスタートから20分後ほど、そこから30分くらいはウツラウツラしていた。ほぼ寝ていて見てないシーンもある。そうなんだけど、多分、映画の印象は変わらないどころか、むしろ良くなったとすら思う。自分は、映画の長さには特に文句は言いたくないことが多いが、ずーっと見てたら本作については、もっと時間的な体験としてツラい気持ちになってたろうなという感覚は否めない。

多分、私の見逃していたシーンで、父側の非がもっと描かれていたことと思う。私が意識を明確にしたあたりは、母側の非が強くなっていたからだ。夫婦、親子、その経営主体、意思決定におよそ正しさを求めるのもバカらしいというか、結論はないだろうが、肝心(らしい)の法廷劇がほぼ全然おもしろくないので、どうしてもなぁ。

ここまで文句をダラダラと書いて、さらに文句を書き連ねたのだけど、すべて消した。というか、視点を変えた。今作、「いわゆる胸くそ映画を地で狙っている」という結論に至ったからだ。そしてそれが確かなら、その狙いは私にとっては成功した。

まず、機能不全家族の映画であること、その帰結であることが重要だ。

逆に、帰結でしかないこと(事件そのものについてだが)、半分は褒めようもない法廷劇で占められていること、といった要素によりなんとなく忘れそうだが、これは否定しようがない。家族として成り立っていない3人の生活の破綻の、その終末の景色を見せられている。

という前提があるわけだが、こんなん、楽しいわけがない。

で、何かを考えさせられる体験かというと、別にそういう構造にもなっていない。父に非があるのか、母に非があるのか、その比重はどれくらいかということは考えうるが、息子の存在を前提にすると、そんなことは本来はどうでもいいハズなのだ。

そして結末はたしかにそのようになっている。なので、別に言うべきこともあるとは思えない。なので、本作を観て浮かぶ疑問も特になければ、そのようなものが解決することももちろんなく、ただ本作を観たという体験だけが残る。なんだったんだこれはと。

で、結末を目にしても、「そうだよな、これでよかったんだ」とは到底ならないという。そりゃ前提からそうなんだけど、お前、裁判で勝ったから勝利の宴だっつって、中華料理屋でベロベロになって待ってる息子を置きっぱなしって、どうなんやねんという視点にしかならない。何も解決していないのである。

ただ、見せられた以上には、息子は強いのかもしれない。

では、映像としてはどうなのか。どうでしょうか。まぁね、寝てしまった部分もあるので偉そうなことは言えないが、どうでしたか。なんかいいなというシーン、ありましたか。

まず、家の構造は面白そうだなと思ったが、それがちょいちょいとそう感じるくらいであった。父が落ちたという屋根裏にあたる部屋、終盤で少年が登っていたが、それ以外には映ってないのかな? あのシーン自体はよかったが、あの部屋ももっと見たかった。スピーカーが何度かドアップで映っていた記憶はあるけれど。

居住地の周辺の雪の原っぱみたいなのも、なんというかアレでしたね。そう思うと、作品全体の映像の閉塞感というのは、これは逆説的に盲目の息子の立場をなんとなく浮き立たせようとしているのかと気づく。それが本当かはわからないが。だとすれば、個人的には納得できる。

母が家を追い出され、車で山を下るシーン、なんなら本作で1番印象的で、好きと言えるシーンなのだが、これなんかは追放なのか、あるいは解放なのか、分からない部分があって、グネグネとした道は、それらを上手く象徴していたとも言えようか。カメラがどう撮影しているのかわからないが、微妙に不自然なのも気になった。

車と言えば、父と一緒に息子が犬を病院に連れていくシーンも触れないわけにはいかない。お話としては父の台詞に重みを見ることもできそうだが、解釈としては陳腐というか、並み一通りのことにしかならなそうなので、いいや。

このシーンもなんか違和感が拭えない。撮影うんぬんは知らんけど、つまり父は台詞を投げかけたとき、運転しながらチラリと後部座席を見るわけだが、息子は声の聴こえ方からその事実には気づくのかもしれないが、父のほうを向くことはない。これは彼としては自然な動作なのだろうが、私にはやはり不安が残り、彼は犬を心配しながら、映像としては虚空を見つめている。

どうにもそれぞれの思いが、絶妙にすれ違っていることが、画になっている。

ふーむ、ということで色々考えると、個人的には、いい映画だったとは思わないが、腑には落ちた。残る謎は、あのゴミのような法廷劇だが、それがゴミであることに意味があるなら、それはそれで終わりかなぁ。掘り下げようはありそうだけど。

とりあえず、ありがとうございました。

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