何に対してか誠実たれと|『トパーズ』《Topaz》

『トパーズ』《Topaz》を観た。1969 年の作品だ。前作は東ドイツだったが、本作は対ソ連ということで、共産主義の本丸を相手どった冷戦ネタの作品だ。珍しくというか、群像劇と言うほどではないものの、主人公一辺倒の構成ではなく、ハッキリと幕が分かれていることを意識させられる。ここでは大雑把に以下の 5 幕として感想を並べる。

  1. ソ連高官クセノフ一家の亡命劇
  2. フランス大使館でデベロウ登場
  3. ニューヨークでの機密情報奪取
  4. キューバへの潜入と失敗
  5. フランスでの黒幕と真相の究明

また、日本語でググっても簡単には情報が見つからなかったが、オープニングクレジットのソ連軍の行進のシーン、キューバのカストロらしき人物の演説のシーンは創作ではなくて実際の映像が利用されているのではないかな。ちょっと確認できていない。

ソ連高官クセノフ一家の亡命劇

発端だ。タイトルの通りの内容だ。コペンハーゲンのソ連大使館からアメリカへロシア人高官:クセノフの家族が脱出する。ほぼ無言で緊迫した状況が演出されるのは、いつも通りながら見事な手腕である。ここが 1 番好きって言われても全然違和感がない。

季節は秋から冬なのかな。アメリカ到着後にワシントンから車を走らせて亡命先の隠れ家に向かうシーンで森の中の屋敷に到着するが、少し木々が黄茶色のようになっている。なんとなく『ハリーの災難』(1955)を思い出したが、映像は向こうの方がキレイだったな。

屋敷で秘密会議が開かれるが、隣室で娘がピアノを奏でているシーンは印象深いね。

フランス大使館でデベロウ登場

冷戦下ではあるがフランス-パリはあくまで中立を貫くというフランス大使館でのシーンに切り替わる。そこに主人公:デベロウが登場する。フランスのエージェントである彼は、アメリカ側の組織とも仲が良い。

デベロウの自宅では、パートナーのニコールは彼の仕事を危惧しており、パリに帰りたいと促す。まぁ、そりゃそうだ。彼らには結婚した娘が本国に居り、娘夫婦がニューヨークに遊びに来るという導線が引かれる。

アメリカ側のエージェント:ジョンかな? が来訪するが、その際の会話もなかなか面白かった。

ニューヨークでの機密情報奪取

国連会議に来訪しているキューバの高官から機密書類を盗みたいが、アメリカのエージェントでは接近すら難しい。デベロウに白羽の矢が立つ。フランスとは関係のない仕事だが、彼は了承する。家族旅行の最中である。

デベロウはニューヨークで花屋を営みつつスパイ活動に従事するパートナーを使って機密情報に接触しようとする。ほとんど、 パートナーの彼の活躍が描かれる。キューバのスタッフが滞在しているホテルは半分無法状態のようだし、街路には共産主義の応援者のようや人たちが集っているし、これは当時の似たような状況を再現したのだろうけれど、なかなか画面が強い。

情報を盗み出すまでのやり取りも緊張感はそこそこにコミカルさを挟みつつ、楽しめる画作りになっていた。特定のシーンについて言えば、貴重っぽい文書をハンバーガーの包みにしており、油まみれにしているところが面白かった。

キューバへの潜入と失敗

ここから全体の尺としては後半に入る。機密文書にてソ連とキューバの繋がりのヤバ味を実感したデベロウは、単独の判断でキューバに飛ぶ。ミッションの重要性もあるが、協力者であるファニタの身を案じた面もあるだろう。

デベロウとファニタのラブロマンスのシーン、ますますドキリとさせられる表現になっていた。話は飛ぶが、拷問シーンもだいぶ精確というか直接的に描かれていた。痛々しさがよく伝わる。これらも規制の対象であったりするだろうから、時代の流れとしてこれくらいの表現ができるようになったのだろうか。スパイしていた夫婦が正気を失っていたが、妻の方の演技がよかったね。

足がついたファニタたちは粛正されていくわけだが、リコ・パラがファニタを処分するシーンも、またよい。どちらかというと彼は、ファニタを女性としてと言うよりも尊敬する英雄のパートナーとして敬愛していた、とみるほうが情に篤い。だからこそあの最期に繋がった。

彼がドアを開けて去り、エントランス中央にファニタの亡骸が残されたシーン、中南米らしい明るさ、デザインを含めて、ホドロフスキーのような美的な感覚を見た。

フランスでの黒幕と真相の究明

紆余曲折の末、デベロウは更迭される結果となるが、彼のもたらした情報によってか亡命ロシア人:クセノフが「トパーズ」の秘密を開陳した。キューバの犠牲になったメンバーの犠牲も少しは報われたろうか。

最後のパリ編では、フランス政府内の不穏分子を炙り出すための踊りがはじまる。そこまで大掛かりな話でもないが、ここで、まさかこういう風にデベロウの妻:ニコールが、まさかまさかこんなムーブを見せるとは。いや、これは酷い。酷いけど最高だ。

ニコールの動き、単純にサスペンスを楽しみたいという向きにおいてはノイズといっても差し支えなさそうなくらいで、まさかのオチをこんな、このような不貞なアスペクトに委ねるのかと思ってしまうよ。

言うなれば、キューバとフランス、本作の物語における彼らを取り巻く構図がニコールとファニタの関係に見立てられる。どうなのかね、これ。時分は面白くみたけど。

直近の緊迫した世界情勢を描いたという意味では、第二次世界大戦中の作品よりもよっぽどテーマに切り込んでいるし、これはこれで特異な作品だ。エンディングに亡くなっていった登場人物たちを思い出させる構造といい、メッセージ性も強い。

好きですね。

余談というか、後期作品になるほど日本語で浚える情報が減ってくる。今回の感想は、以下のブログの記事で登場人物の関係とあらすじ確認しながら書かせてもらったのでリンクしておく。