海底から浮上したが|《U・ボート ディレクターズ・カット版》

《U・ボート ディレクターズ・カット版》を観た。Amazon Prime から無くなる前に。

この映画、観た記憶はないが、その自信もない。地上波で放映されたことがあったなら可能性はある。私が鑑賞したとすれば、2004 年の木曜洋画劇場版に限るようだが(Wikipedia拠)、どうだったか。

まったく面白い映画で、もともとは TV 向けのドラマらしいが、そういう前提にしても話のつなぎなどに無理は感じない。ディレクターズ・カット版は 3 時間を超えるので、調整しやすい面はあるのだろう。鑑賞は長くてツラいが。劇場公開版は 149 分、日本国内上映版は 135 分らしいので(同前)、やはりこれらは省略の多さゆえに感触も異なろう。

つまるところ、潜水艦が沈むか、沈まないかが全体のカタルシスで、潜水艦モノといえばこれに尽きる気がするが、本作については特に、帰港後のクライマックスこそが評価を決定的にしているというか、そういう作品で、ここが決定的に名作足らしめている。のだろう。また、出航前の饗宴との差こそが、実である。戦争は虚しい。

ほとんど登場人物の話をする。

艦長と機関長はかなりの付き合いらしいが、どの程度なのか。機関長と機関兵曹長の見分けが、たまに難しくて、ツラかった。長い航海ののち、みんなの髭が伸びてくると尚更だ。

その機関兵曹長:ヨハンは途中でメンタルブレイクしてしまうが、そのときの彼の表情、その相貌を照らすライティングは本作中でも 1 位かというくらいの狂気を前面化した見事な表現だ。

操舵長はなかなか、いいキャラクターだった。が、ジブラルタル突破作戦で重傷を負い、命半ば。かと思いきや、なんとかかんとか、地味に彼は生き残っており、こういう数奇さの演出も効いている。とはいえ、機銃にやられてアレだけ時間が経ってたら、本当だったら失血死だろう。

艦長、トムゼン大尉と洋上ですれ違って喜んでいたが、邂逅が終わった途端に現実に戻り、周囲にキレ散らかす。リアリティがある。戦友に思わず出くわす奇跡を楽しむことと、その事実が示す不合理な事態に対処すべき態度とはまったく別であって、嫌にドキドキさせられると同時に、面白くもある。

報道官の彼は実質のところ艦長と並ぶ主人公だろう。乗艦上の責務としてはフリーの立場から最終的にはクルーたちと運命を共にする。彼なりの視点から、特に士官以上らとは、ときには橋渡し的な役割を、特に最後のほうでは取ったりもする。皆の最後を見届けるのも彼の役割だった。

艦内、通常は白色灯か暖色の白熱球かで、潜航または浮上時に赤色灯に切り替わる。潜水艦モノの皮切りであろう本作だが、これだけでまず楽しい。ほのかに光る青いライトや、洗面所のライトなんかも印象深い。

食事シーン、割とバリエーションに富んだ料理が並ぶ。美味しそうだとも言いがたいが、魅力的ではある。魚かチーズかに黴が繁殖したシーンが象徴的であったが、それ以外もやはり目に留まる。報道官、たまに食欲がないのがハッキリしていて、これもよかった。

ソナー音でビビる演出も、潜水艦モノだとアルアルで-もちろん実際においても恐怖そのものだろうけれども、本作中においては中盤からの敵駆逐艦との攻防のさなか、この音がふと耳に小さく響く。すると「おいおいおいおい、何だこの音は」という感じになって、不思議な新鮮味があった。