地域をみた|《ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All》

《ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You All》を観た。

スロバキアの写真家:ユライ・ムラヴェツが 2015 年前後あたりからウクライナ東部に出入りして撮影したドキュメンタリーらしい。

彼自身、当初は半ばライフテーマのようにロシア連邦の撮影旅行に勤しむつもりだったと冒頭に説明されていて、それが 2010 年頃のこととか。

もちろん当人:ムラヴェツが監督・撮影としてクレジットされているが、同行者が 1 人くらいいたんだろうか? たまに彼自身が映る。あとは現地のドライバーも雇っていたようだから、行軍は 3 人ほどと思われる。

どういう名目で乗り込んだのかは不明だが、本作中で通過する検問ではスロバキアの TV 局員のような身分を名乗っていたのでが、そういう契約もあったのかもしれない。

しかし、途中では西側プロパガンダのリストに掲載されているとも検問員から確認されていた。なるほど、しっかりした情報網じゃねーの。

映像としては、映像の合い間に、たまにモノクロの写真が挟まる体裁になっている。景色であったり、インタビュー対象のポートレートであったりする。そこは本業が写真家の画なだけあって、静止画のカットの決まりが非常にいい。作品然としている。人物もいいが、風景がよい。

全体感としては、田舎、神、そして犬という 3 つが印象的だった。

まずは田舎だ

映像となっていた地域、特に村なんかの名前はほとんど記憶できなかったが、なにせ前線のほとんどは荒野かあるいは農作地であって、そこに点在する村落がポイントになる。でまぁ、田舎も田舎だ。インフラも最低限度に思われる。そんな村がことごとく破壊されている。世界の終わりだ。

こういう村落などは壊すだけ壊したら、ほとんど見捨てられたも同然になるようだ。それらを結ぶ要衝、幹線などを押さえることが支配下争いそのものなのだろうか。そういうことを意識させられる。

神様がいます

田舎っぷりは、土地や設備などだけではなくて、その心性にも感じ取られた。これは言い方が完全に悪いが、現地の人らの神に対する態度というのは、 21 世紀に生きる日本人としての私からしたら、かなりの信心っぷりに驚く。

登場人物らが多少は高齢であるという点を差し引いても、ここまでかと思う。教会に通い、家にはイコンが飾られ、平和を神に祈る。それが生活の一部というのならそうだろうが、すがる対象はあくまで神なのだ。

あるいはプーチンか。

ちなみに本作、西側メディアに数えられる方が撮影しているので、基本的にはウクライナ側の立場のインタビューが多いが、後述のようにシニアの方には明確に親ロシアを表明する回答もあった。あるいは分離派か。親ロシア派のそれらしさは、《ドンバス》でも描かれていたが地域性やリアル、フィクションの差はあるのだろう。

犬様がいます

犬がたくさん映る。「あぁ、これは犬の映画だな」とすら思った。とにかく犬が多い。愛玩というよりは番犬またはパートナーといった存在のようだが、今回は野良犬化した子らも多そうだ。

本当にどこにでも居るし、どこででも吠えている。やはり、田舎なのである。一応、猫も少しだけ居た。

以下、インタビュー対象についてのメモ的な感想を残す。

ドライバーのおじさん

作品冒頭に登場した。ウクライナ側から親ロシア側に接近するときにドライバーとして雇われた方らしい。やはり自宅の近所に爆発が起き、周辺の住民が亡くなったりしたとか。息子さんはキーウにいるとか言っていたかな。

娘がドネツクの大学にいる女性

ドネツク(だっけ)まで 90 ロ地点の村落の女性だ。娘と電話すると、大学の奨学金が出るか出ないかで少し揉めているらしい。娘の大学の地域はすでにウクライナからの独立を謳っている。

対ナチスの老女

「プーチンにはやく助けてほしい」と零す。父はナチスと戦ってソ連から勲章を貰っている。村全体がかなり壊滅している地域のお婆さん。この方は完全に親ロシア派というか、心性はロシア人なんだろうか。ロシア側の主張の通りにウクライナの中枢がナチズムに侵食されているという視点を信じており、その旨に沿った意見を繰り返していた。

分離派とされて収監された息子

上記のお婆さんの息子かな。鉱山労働者である。細かい事情はわからないが、鉱山労働者には実際に親露派が多数いたらしく、彼はそういったカドでウクライナ側により捕まり、しばらくどこかに収監されていたらしい。彼自身は親露派ではないというし、インタビューに応えてもいるから、まぁ完全にどちら側という視点はないのかもしれない。

ピアノの伴奏の子と、それにあわせて踊る子。

おじさんかお婆さんかくらいしか映らない本作で、たまに登場した若者たちのひとつ。幕間という感じのカットだったがそれなりに印象的であった。

老女と猫

「ウクライナに住んでいるけど、私たちはロシア人」のような。明言はしていなかったようだが、やはり心理的にはロシア寄りのようだった。おそらく親露派の軍人からパンを貰えたらしく、それで生きながらえているといっていた。この家には猫がいた。

学校が壊された

地域の小学校が破壊されたと説明する女性がいた。分離派は壊さないようにしていたが、ウクライナ側が壊したという説明をする。彼女は分離派寄りなのだろうか。まぁ、そういうことばかり考えても仕方ない気もしてきた。

年金をもらう老女

定年している。年金をウクライナで受け取って、ただし彼女の生活圏ではウクライナ通貨のフリヴニャは使えないので、その場でルーブルに換金するらしい。レート(取材当時)は1:3だとかで、割がいいと彼女は小さく笑っていた。強い。

スクーターをこの世でもっとも愛してる女

60 代ほどだろうか。比較的、安全地帯なのかな。たまたま手に入れたスクーターが大のお気に入りで街中をかっ飛ばしているそうで、彼女の視点から撮影された映像も映されていた。束の間の平和か、あるいはここは平和か。平和だったのか。

ロシアン・スパニエルと男性

これは明確に飼われていた犬だった。乗用車のトランクにいた。このインタビューも比較的安全であった地域で行われたようだ。ロシアン・スパニエルという犬種、調べてみたら現地以外ではレア種らしいけれど、可愛らしかった。

ホームレスの男性

ソ連時代のスターリンだかの像が撤去された市庁舎だかの前でのホームレスの男性へのインタビューがあった。「こんなもの(ソ連を讃えるオブジェクト)はもう必要ないんだ、へへっ」みたいな半ば自嘲染みた雰囲気を憶えている。

誰も歴史を学んでいないという軍曹

ウクライナ側の軍曹だったかな、の青年。「歴史を誰も学んでいない。こんなことはすぐに終わるはず」と言っていた。彼はまだ前線で戦っているだろうか。

神に祈る人々。アル中のおじさん。

教会、讃美歌、たくさんの老女。1 人だけアルコール中毒症らしい男性が混ざっており、神様に祈っている。ある女性が諭すように励ますが、うまくいかない。戦争とは関係のなさそうな日常的なシーンではあった。

マリウポリで空襲から逃げた少女

唯一の若者へのインタビューで、10代中盤くらいだろうか、父とミサイルから逃げたという話を泣きながら語ってくれていた。この少女も、もはや成人しているくらいだろうか。

現在では検索すれば破壊しつくされた瓦礫の山だが、まだ当時は被害もほどもわからない程度のようだった。

おつむが良かったら戦争なんかしない

やはりどこかの衝突地帯の村の女性、とっくに逃げ出した他人の家屋で生活している模様だ。自宅はとうに破壊されたと。

全インタビュー対象のなかで語り口がもっとも理知的というか、包み込むものがあった。次に出てきたキーウのインタビュー対象をやや例外的とすると、この女性をドキュメンタリーの最後に配した理由もわかる。インタビュアー(監督だろう)は最後に「こんな質問してごめん」といってハグしていた。

あとやっぱり、犬がいたね。

分離派の手榴弾に手足を吹っ飛ばされた男

キーウのマンションにて取材に応える。男性、義手をみせる。脚も片方がないらしい。病院で入院中に知り合った女性と乾坤したのか、ともに暮らしている。

傷病軍人手当みたいなのが出てるのか、暮らしにはそこまで困ってなさそうで、この上ない幸せということもないだろうが、今回のインタビューをみていると、なんというか、戦後の空間をイメージさせられるものがあったような。そんなラストだった。

結局のところ、そんなことはまったく無い状態が続いている。

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公開は 2016 年ということで、すでに 6 年前の映画だ。当時からウクライナとロシアの国境線では小競り合いが起きており、それを現在まで引き延ばして考えると、ジワジワとロシアの侵攻が遂行されていたという事実がより確かに伝わる。