《コーダ あいのうた/CODA》を前情報もほとんどなしに、友人に薦められて鑑賞した。よかった。レイトショーで鑑賞したが、女性客のほうが多かったかな。フランスの映画《エール!》(2014)を下敷きにしたリメイク作品ということは鑑賞後に知った。ということで、此方はもちろん未見だが、もともとの作品の方はもっとコメディ色が強いとか。
大雑把なあらすじ
海辺の漁師町、ヒロイン:ハイスクールに通うルビーは聴覚能力をもたない両親と兄と 4 人家族で漁師一家として生計を立てている。事情が事情なので彼女も幼いころから現場に駆り出されている。漁師兼学生だ。パワフルである。
高校の自由選択の科目で合唱を選んだ彼女は、持ち前の歌唱力、ほのかに抱いていた恋心を同時に昇華させる運命に導かれる。ともなって家族とあらためて向き合うことになる。
撮影場所
マサチューセッツ州のグロスターというところらしい。ボストンの北東にある少し突き出た半島、といっていいのかという地理にある。作中はおそらく春夏あたりだったろうが、冬はそこそこに寒そうだ。実際、水遊びのシーンは、水が冷たいということだったな。ルビーの目指すことになった音楽学校に車で向かえる距離だったので気になったが、実際に 45 分程度で着くらしい。主には下記のサイトの情報で確認した。ありがたいことだ。
家族の関係性
家族で 1 番に状況の整理や内心の制御が覚束なかったのは彼女の母に見えた。いろいろな意味でルビーと和解し切れたとは思えないものの、現実的なラインだろう。こういうところのリアリティは、母との関係以外も見事に描かれていた。
父と兄は漁業という生業の重労働、同時に卸市場での苛酷な現場において彼女と、長い間に渡って過ごしているから、彼女の強さを見つめている。知っている。
作中でのテーマとなるのは等身大のティーンエイジャーのルビーとしての物語だが、荒くれ物の漁師たちと渡り合っている彼女は、本当には強者なんですよね、良くも悪くも。そういうことを意識させられた。
兄は家族の犠牲になるなと言い、父も彼女はずっと大人だったと呟く。このへんの思いやりのすれ違いみたいなやりとりは、泣きそうになるくらいの繊細さでもって、繰り返すが見事な演出だった。
その兄と父だが、フィクション然としてではあるが、彼らの事業はそれなりに成功している状況で描かれている。もちろん作り話としてではあるが、決して彼ら自身が無能であったということはなかった。このような描写や展開には、娘、妹に頼り過ぎていたという面も見いだされる。
少しだけ気になったのは、結局のところ、ある時点で問題とされた、支払いなり罰金なりの解決は鑑賞者のご想像にお任せという体で、一昔前によく見たようなアメリカ映画のご都合主義というか、敢えてこのような収束にしたのだろうし、特には不満ともならなかったが、やや心残りではあった。
気になる点のようなところ
まずは 1 点、ルビーの恋愛相手である彼の家庭は幸せではない。ほとんど匂わせ程度であったし、社会問題として扱うほどで深刻ではないという立て付けだろうけど、機能不全家族みたいな感じだろうな。深堀りするとすれば、家庭の問題は、必ずしも身体的なディスアドバンテージとは関係しないという点で、これも言ってしまえば当たり前のことではあるが、そういう留保はあった。
2 点目。これは鑑賞方法についての話だが、これは本国なり原語版の上映だと手話に字幕が付くという理解でいいんだろうか。基本的にはそうせざるを得ないだろうから、この憶測で間違っていないだろうけど。ただ漠然とそのことが気になっただけだが、結局のところ手話者のコミュニケーションを翻訳しているということに違いはないんだなと。
彼女の家族の俳優の方たちは耳の聞こえない方たちらしいが、主演の彼女は手話をそれなりに学んだろうかね。まぁ、そうなんだろう。
3 点目というか。その関連でいうと制作にあたっては、家族を演じたの俳優陣やその他、実際に耳の聞こえない方たちの意見を取り入れられたというが、原則的には耳の聞こえる私たち中心に向けられた作品になっている本作が、耳の聞こえない方たちにどういうふうに受け入れられるかは気になる。
そこに差はないはず、と言い切る勇気はない。
最後はさらに余談だが、冒頭の兄と父との会話からは《揺れる大地》(1948)が連想させれらた。意識して引用していることは、間違いないと言ってよさそう。いくつか感想を読んだが数名ばかり挙げている方がいた。
本作が、作品内でよい話としてまとまっているのは疑いなく思うが、タイトルや《揺れる大地》の引用などを踏まえると、眼前にある問題と真摯に向き合う態度もあらためて要求されているよな、とは。
もっともっと余談だけど、本作の配給権は 2021 年の 2 月だかに Apple 社が獲得してるんですね。で、今回はアカデミー賞にノミネートされたとのことで本年の 2 月にプレスリリースなんかも打っている。へぇ。
アカデミー賞の関連もあって以下のような記事も出ましたね。
Last modified: 2024-01-24