愛のなさゆえの苦しみは日常ではないのか|《美女と野獣》(1946)

ジャン・コクトーの《美女と野獣》(1946)を観た。スコセッシおすすめ外国映画マラソンの続きだ。

あらためて原作の『美女と野獣』について調べると、もとは 18 世紀の女性作家による作品であったとか、現行で流通しているのは原典の簡略版であるとか、知らない事実が多い。

ディズニー作品での鑑賞歴はあるので、話の大方はわかったうえで臨んだが、細部は異なっており、そのへんの相違を確認できたのは面白かった。

ベルをダシにして一攫千金せんとする兄や姉たち、兄友らの薄汚さなどは、やや飛ばし気味であったが、それぞれの描写は端的ながらも、それなりに生き生きとして、そこそこに無暗で考え無しな悪意が印象に残る。

一方で、野獣の苦しみや秘密、クライマックスの兄たちの顛末、特に後半は割と急ぎ足というか、取ってつけたような構成に見えてしまい、少しばかり残念ではあった。

ちょっとググった程度では不明だが、本国なりでは、映画以前に舞台なりで上演されているには決まっているよね? と思ってフランス語版の Wikipedia などを見てみたが、そうでもないのかしら。

ルイ16世の婚約のために書かれたという 1771 年に発表された喜歌劇が原作の翻案という情報が載っていたが、それ以外はおよそ 20 世紀のコンテンツばかりで、ジャン・コクトーの映画の前にも 3 作くらい映像の小品(らしきもの)があったようだが、ざっくりそれくらいなのかな? 童話の扱いという感じなのかも知らん。

映画自体は、美術はもちろん演出も舞台のような雰囲気が多かったし、そういったところも面白かった。中遠景のシーンは無いに等しい。野獣の城に迷い込むときの草葉の揺らめきとか、もろに舞台だよね。

城の勤め人などが魔法で備品類にされているという設定を、そのまま人間を使って映像化するというのも奇抜でシュールでおもしろい。これも先行の舞台などでも用いられていた手法なのかなと思ったが、そういうわけでもないのかな? もう少し詳しい情報がほしいが。

まぁ、しかし面白い。後半こそ少し雑に感じたが、全体的に面白い。なんでおもしろいのか? 淡々とした画面と進行、やり取りに魅力がある。なんだろう。こういうのも古典の面白い味といえばそれまでだが。

心に残った要素など

特に気に留まったっところを挙げておく。

自動ドア

基本的に、城の扉は勝手に開くし、勝手に閉じる。紐で引っ張るなりしてるだけだろうが、なかなか面白い。ひとつだけ、最初の晩餐での会話後に野獣が去るシーンは、仕掛け格子みたいな扉だったが、ここは彼が彼の意思で閉じていた。こういう強調のしかたもある。

鏡のマジック

鏡にほかの場所の情景が映る。フィルムを切り貼りして実現するシーンなのかね。よくわからん。遠隔の情報を映し出せるというのは、昔から幻想されたファンタジーだったが、現代では普通になった。奇しくも本作の上映されたころは、テレビ放送も実用化の目前とかなんじゃないかな。

であれば、もしかしたら作品が映したファンタジーは、当時はまだたしかにファンタジーだったのかもしれない。

そのほかの魔法

野獣がベルの部屋に勝手に入室し、「プレゼントを持ってきた」と言い訳してその場で首飾りを作り上げる。ヒュヒュヒュっと地面の方から吸い寄せて作ったように見えたが、これは実際には落としたのをコマを逆回しでつなぐ方法なのかな。そういうのあるよね?

また、ベルの空間転移は、カットのつなぎ方の工夫くらいだろうけど、最初の転移のときは壁のなかから出して、あたかも宙から湧いたように見せようとしたっぽい。が、あんまり出来がよくなかったのか、なんか中途半端だった。それ以降は、単純にカットの切り替えで表現していた。

逃げる野獣

城の外縁みたいなところでデートしてたら、野獣が苦しんで逃げるシーンがあった。横に逃げていく野獣がパッと 90 度左に旋回すると、カメラもパッと奥に向かって荒野に飛び込んだ野獣の背が離れていく。とにかく、いいシーンだった。

階段を上り去っていく野獣とか、カーテンが揺れる城内の廊下をベルが往くシーンとか、ところどころ奥行きを生かすシーンが要所で上手く使われていた。

飛ぶ 2 人

またシャガールみたいなことになってる。というか、これは思ってみれば、最新のマトリックスでも再現されているテーマだ。空を飛ぶというのはどういうイメージなのか。原作にもあるのかな。

離陸した瞬間こそワイヤーでの演出っぽさが見え見えのダサい雰囲気だったが、それ以降はなんかよい映像になっていた。すごい。

ところで、映像で空を飛ぶように演出された作品って、どの作品が嚆矢となっているのだろうな。そういうところも気になってきた。

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監督のジャン・コクトーだがマルチタレントなんですね。小説家としては知っていたが、「芸術のデパート」という異名は知らなかった。発表年の 1946 って戦後だろうし、大変だよななどと思いつつググったら以下の記事がいろいろと詳しかった。