ただのサッカー大好きっ子だ|『さよなら私のクラマー』

『さよなら私のクラマー』全 14 巻を読んだ。春に映画《さよなら私のクラマー ファーストタッチ》を観た関連で原作を追った結果となる。

新川直司のマンガのおもしろさ

のっけから作者の話をする。新川直司は『四月は君の嘘』の単行本から知った。ところで、この作品は「少年マンガで少女マンガをやる」という目論見があったらしい(最下のリンクの記事より)。そこに違和感はない。

新川直司の作品の特長は、独特の勢いの奔流とその魅力ではないか。下手したらハイライト様の調子になりかねない、ババーッと展開を推し進める方法が随所で使われるが、これが爽快だ。

逆に、この方法の弱点といえば、単行本などのまとまった分量でないと、その波に乗りづらい。

月刊少年マガジンで『さよなら私のクラマー』をパラパラ捲っていたときは、全体で何が起きているのか、よく分からないことが多かった。だが、通しで単行本を読んだらべらぼうに面白い。そういう体験の基づいて話している。

さよなら私のクラマー

作者はもともとサッカー好きで、本作には実在のサッカー選手とその活躍をオマージュしたシーンや台詞回しが多く登場する。本作は女子の高校サッカーが舞台だが、テーマとしては女子サッカーの文化的な側面も無視できない。

現実、2011 年に日本女子サッカー代表が 2011 FIFA 女子ワールドカップで優勝を果たした。本作の連載はそれから 5 年ほどのちだが、それからどれだけ日本女子サッカー界が正当に評価されたか、後裔は育っているか。どうなのか?

ぶっちゃけ私はわからないが、本作の登場人物たちは、この問題意識に立ち向かっている。悪く言えば、作品全体がこの問題に取りつかれている面がある。作者の主張といえばそうなる。

たとえば、主人公ら蕨青南高校にコーチとしてきた元代表の能見奈緒子は、この問題意識を象徴する筆頭キャラクターで校内校外を問わず、選手たちから篤い憧れと信頼を得つつ「あの優勝が」という前提がさまざまな選手にモチベーションを与えている。

サッカー小僧 世に出ずる

主人公:恩田らの蕨青南高校女子サッカー部、特にその 1 年生チームは、相対的には、上記の問題意識とは縁遠いキャラクター達だ。つまるところ、ただのサッカー好きだ-ただし、個々の実力がそれまで発揮されてこなかった恩田、そして周防が主軸にいる。

ここに設定の妙があって、作品は大上段な問題意識を隠しもせずに度々開陳しつつ、主人公たち、彼女らに感化された対戦相手は根本的にサッカーが好きで楽しんでいるから、せん手たちはひたむきに勝ちを目指していく。説明してしまえばごく当たり前だが、そうやって青春スポーツ漫画なりの熱量や勢いを演出してくる。割り切り方と見せ方のバランスは巧い。

好きなエピソードやシーンはどこか

試合のシーンは、恩田の異様さが目立つシーンがやはり印象深い。最初の練習試合でのマルセイユルーレット、雨天の試合でのリフティングドリブル、シューズが脱げてもボールへ向かう気迫など、キリがない。どれも好きだけど、最後の試合で曽志崎の退場後、不意に入れたゴールがかっこよすぎるでな。

周防だが、なんだかんだで活躍は限定的だが、彼女については「わたしは今、フットボールをしている」と試合中にモノローグが入るシーンがどうしても記憶に残る。新川直司の作品は、同じ台詞やテーマの主張を同じ形で繰り返すことにあまり躊躇いがなく、このモノローグもバタ臭くはあるけれど、それだけ印象が強い。周防の活躍はもっと見たかったが、本人が楽しそうなので、ヨシ。

なんかほかに言いたいこと

他の登場人物たちにもいいシーンはたくさんあるんだけど、私が主人公とみている 2 名を挙げたらとりあえずいいかなとなった。

逆に、あらためて思い返すと登場人物はやたらと多いが、それぞれ個性的なキャラクターになっているのはスゴイ。というか、キャラクターの描き分けがスゴイとも言えるのかもしれない。

ひとつ気になるは、挟まれるギャグパートの小ネタが罵倒語の掛け合いに終始することが多い点だ。やや稚拙さを感じる。男子キャラも女子キャラも同じノリでやっているのはフラットといえばそうなのだろうけど、ちょっと後味が悪い。

この作品、2021 年 1 月号まで掲載されたとのことだが、つまるところ 2020 年の最後の発売号で完結ということかな。あえて 2021 の枠に入れるけど、今年完結した作品のなかでは特別なおもしろさがあった。

どれかの記事では「この完結はほぼ想定通り」とあった気がしたがどうなのだろうか。何かといえば、タイトルをどのように読めばいいのか十分に理解できた気がしない。

新川直司も今は連載がないようだが、新しい作品が楽しみである。

以下は参考に読んだ記事など。