《天井桟敷の人々/Les enfants du Paradis》を観た。1945 年のフランス映画で、監督はマルセル・カルネという方らしい。タイトルを辛うじて耳にしたことがあるくらいで、監督名やその他の詳細はまったく知らなかった。

というわけで、スコセッシおすすめ外国映画マラソンの 7 作目かな。Amazon Prime で上下に分けられて配信されているバージョンで鑑賞した。二部映画で 190 分だ。

舞台の年代を同定できなかったのだが、Wikipedia に拠ると 1820 代ということらしい。舞台はパリだ。フレデリックという若手俳優志望が劇団に入ろうとするところから始まる。女たらしだが、演劇に対する情熱は本物で、実力も相応にあるようだ。幼少時は孤児院で育ったことも中盤で示唆される。

彼の入団した劇団にはバチストという青年がおり、バチストの家族はこの劇団のメンバーとして生計を立てている。バチストには無声演劇(作中ではパントマイムという)の才能が有り、それを次第に開花させていく。

彼は前編の或るシーンで「天井桟敷の人々」を笑わせる劇を目指していると告白する。この台詞は正しくタイトルを指すが、それが生きているかは、どうなんだろう。

ところで、ガランスという美女が登場する。彼女を巡ってフレデリックとバチスト、さらには無法者のラスネール、伯爵のモントレーがぐちゃぐちゃとなって物語を推進していく。大局的に見ると、バチストとガランスのラブロマンスのようだが、どうもそういう楽しみ方はできなかった。

舞台、無声、あるいは映画とは

本作にはメタ映画、あるいはメタ舞台的な企てがあるんだろうと思うが、そのほどはどうか。バチストが演じる作中劇《古着屋》は、まぁ作中で見るだけでも面白い。一方、フレデリックが売れっ子になってから上演中に勝手に脚本をいじって演じる作品も、ハチャメチャではあるが観客ウケするのはわかる。

バチストの劇はカメラ自体もほぼ正面からの定点撮りなのだが、一方のフレデリックの劇は、メタ演劇みたいな要素があるのでカメラも視点を変えざるを得ない。それぞれの面白味があることがわかる。

バチストの表現力がスゴイのは画面越しでも伝わってくるし-無声劇であることをどう受け止めても、それこそがバチストの才能なのだが、映画の映像を見ている身としてはフレデリックの劇の方が面白味は伝わりやすい。作中では 2 人は相互に敬意を示しているが、フレデリックとしては演技の方向性こそ違えど、バチストの才能に嫉妬すらしている。何とも言えない皮肉がある。

しかしながら、なにより本作の映画としての醍醐味部分は、バチストが劇を捨てるある瞬間にある気配だ。あそこだけは本作全体においても珍しくカメラがよく動いたと記憶している。酷い雑に言えば、この舞台という要素の重みが本作を名作たらしめているし-まぁそりゃぁね、一方で掴みづらくもしているのではないか、偉そうだけれどもそう感じた。

なんだか妙に台詞がキマっている

これは何なんだろう。この映画、淡々と会話が繰り広げられて、そこに映画特有の跳躍やキレもないのでそういう意味では退屈になりがちではあるのだが、台詞そのものは妙にカッコいい。小説ばりといってよさそうなくらいに。

それでまぁ、脚本のジャック・プレヴェールを引けばわかるのだが-鑑賞後に確認しました-、彼は文学者であり、詩人であり、という人物なのだ。言うまでもなく、台詞回しが評価されているらしい。私は自分の鑑賞眼をそれなりに褒めたい。

しかし、逆に言うと台詞が決まりすぎているように思う。映像があんまり面白くないんだよね-だけどこれはもちろん上述のように舞台を扱っている点にも由来すると思う。群衆のシーンなどは流石と思うのだが、ピンとくるシーンが少ない。

バチストとガランスの鏡に向かっているシーンの対比などはさすがに記憶に残った。あとは、フレデリックの決闘に向かうシーン、無法者のラスネールの最後の覚悟なんかはよかったね。

なんの映画なんだろうか

最初に書いたように、バチストとガランスのラブロマンスに思えない。かといって群像劇という風でもない。このへんが特にこの時期のフランス映画っぽいのかなと思うが-数本見た程度で判断できることではなかろう-、登場人物の係る係争のすべてがすれ違っていく事象自体が描かれてるというか。

バチストの人間性が特に後半はまったくよくわからない。逆に考えれば、ガランスの心理のような面こそが捉えやすいのではないか。ガランスは男を翻弄しているようでいて、よくよく考えると彼らに頼るしかないうえで、それぞれに翻弄されていった結果が彼女の運命のように思える。

クライマックスにおける彼女のとった行動は、彼女を取り巻く愚かな男たちからの決別なんじゃないの、とかね。

文句のような感想になってしまったが、本作を映画館のスクリーンで観て、そこから現実に帰ってきたときは、疑問や納得できない面は抱えつつも、それなりに気持ちのいい体験になっていそうなんだよね。そういう魅力の作品だ。

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