『羅小黒戦記』(ロシャオヘイ戦記)を観た。ミニシアター系で昨年だかに国内でも上映されていた中国スタジオ産のアニメーション作品だが、上映当初から高評価であった。この度に日本語訳となってシネコンでも上映される次第となったようだ。

これは都合がよいというわけで劇場に向かった。

小さな黒猫(型の森の妖精)である小黒が、故郷の森を失い、彷徨い、仲間に出会い、敵に出会い、師匠に出会い、という感じでサラッと冒険活劇して、ちょっと成長する濃厚な物語だ。泣ける。

テーマとしては、似たような作品、あるいは社会背景などから話を拡げると、あまりこの方法は上手ではないが-『もののけ姫』や『ドラえもん のび太と雲の王国』などが個人的にはすぐに思い浮かぶ。

つまり日本のアニメで 20 年以上前に試みられたテーマが採用されている。現在の中国には勢いがあるが、伴う犠牲や反省のような風潮もあるのだろう、としてよさそう、だが、これも一旦置いておく。

そうした前提のなかで物語は、扱いの軽重にかかわらずに重苦しくてダルくなりかねないテーマとは裏腹に、コミカルで笑えて、戦闘シーンを含んだアクションは多彩にして繊細、そして雄弁で、極上のエンターテインメントになっている。ビビる。

妖精の属性や能力といった諸設定は SF やファンタジーというよりはむしろ(それらは大前提として)、昨今の日本のコミックで主流となっている能力バトルの系譜に乗っているというのも間違いなさそう。なんなんだ、これは…。

小黒の成長についても、最近の日本の作品でみられるほどの押しつけがましさはなく、少しばかりの唐突さは感じたが、なだらかで心地よい描写に留まっていて非常に好印象だった。せめて灰色を経てほしかったが。

付け加えるならば、小黒を取り囲む大人たちの-対立しながらであっても-彼の幼い心に寄り添う気持ちには、それぞれの理があった、はずだ。

ところで、このテーマは善悪というよりも、抗いようのない流れに如何に身を任せるか、が焦点となりやすいが、本作の提示するとりあえずの結論はなかなかドライである。アジア人らしい現実主義っぽさも滲ませている。だが、現状の世界を鑑みてもそういうものなのだろうな、とも言える。私も大人になってしまった。

中国のアニメーション作品がこの素晴らしさをもって発信されてくるというのは、上から目線で評価したいわけではないが、まずもって感動だ。凄すぎる。そのようななか、『三体』についての感想でも書いたが、歯痒い部分もある。

本作の世界観は、おそらくはそこまでは現行の中国の国家体制とコンフリクトしない。言うまでもなく、それが端的に悪いわけではないし、原則的には作品と切り分けて考えるべきであるわけだが、逆に本作をなんらかの免罪符として解釈してはいけないことも心に留めておきたい。

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