《宇宙でいちばんあかるい屋根》を観た。映画の原作の野中ともそという方を知らなかったが、元は音楽畑から活動をはじめて編集者となり、現在はニューヨークに在住らしい。Wikipedia に載ってる情報の受け売りだが、原作はもともと 2003年にポプラ社で書き下ろしの単行本として刊行され、2006年に角川文庫、今回の映画に合わせて本年 4月に光文社から再文庫化されて刊行されているらしい。数奇な運命やな…。

本作、ファンタジーらしいぞ? というくらいの事前情報のみで鑑賞した。劇場には老若男、という感じで確認できる範囲では男性しかいなかったが気になったが、どういうことかな? よく分からない。レイトショーなのでそもそも疎らではあったのだが。

さて、今年はコロナの影響などもあって観られている作品自体がそこまで多くはないのだが、序盤のワクワク感は割とかなり強烈なインパクトを残してくれた作品で、総合的にもかなり満足感の高い作品だった。

脈絡のなさなどどうでもいいのだ

原作も未読なので本作の想像力を支えている根本的なテーマを見落としている可能性はあるのだが、作品への没入に失敗するか、没入を拒むと、そもそもつばめと星ばあの出会いがなぜ発生したのかという疑問が大きくなるばかりだろう。実際、そんなことは気にしても仕方ないのだが。

「宇宙でいちばんあかるい屋根」というテーマがどのように導出されるのかについても、率直に言うと星ばあ(桃井かおり)のインパクトに一任されている感がある。とはいえそれはオープニングの映像をはじめとした映像表現の端々で補強されてはいるのだ。

ところで、撮影のロケ地は神奈川県秦野市と聖蹟桜ヶ丘で行われたらしい。作中で登場する水族館は設定上は江の島だろうと思うが、もっとも幻想的に描かれたクラゲ水槽のシーンは山形県の鶴岡市立加茂水族館がロケ地とのことで。

山形に足を延ばす機会はなかなかないが、加茂水族館には行ってみたいものである。

わかりやすい多様性をさまざまに見せる

この映画のよさは、登場人物たちの多面性がわかりやすく描かれていることにある、としたい。主人公である大石つばめ(清原果耶)の体験やその他の描写を通じて私たちはそれを楽しんでいる。

本作で 1 番よかったなと思ったのは、伊藤健太郎の演じた浅倉亨と彼の演技だった。つばめの憧れの近所のお兄さんとして画面に映るときは、ちょっと年上のお兄さん役を格好よく魅せているが、家族内で浮いている姉をなんとか繋ぎとめようと努力しているシーンでは、健気な弟として、ある種の弱弱しさと健気さを醸していた。よい。

つばめの父である大石敏雄(吉岡秀隆)、妻が妊娠中であるためかしらないが、よく家に居る。本作の設定の仕掛けのひとつは中盤くらいから徐々に明かされるが、敏雄の葛藤というのはほとんど表面化しない。というのも、本人の中ではほとんど解決しているからだろう。つばめへのフォローが父としてどうなのか? みたいな疑問は湧いたが、思春期の娘への対処としてできる限りのことはしている、とも取れる。

男性陣としては笹川誠(醍醐虎汰朗)もよかった。作中では残念ながら全編に渡ってほぼ好感をもてるキャラではないのだが、最後のシーンでは大いに笑わせてもらった。擁護するものではないが、結局のところ単純にこのような不器用さが生き方になってしまっているのであるなぁ。

山上ひばり役の水野美紀も大石麻子役の坂井真紀もひさびさにみたが、どちらもよかった。眼力がある演技をされていた。

その他のことなど

主演の清原果耶は中学生を演じていたが、実年齢は 18 歳か。162 cm という身長らしいが、中学生としてもそこまで違和感のない映り方をしていた。演技や衣装、撮影などが巧いのか。制服姿のときは大人っぽく、私服姿のときは中学生相応にみえるというのは上手な構成だなと。彼女の流した涙がどのように変遷したのかというのは、考えていて楽しい。星ばあと過ごした夏は、どれだけ濃密な時間だったのか。

ドローン空撮で、秦野市の住宅街を映している。オープニングでかなり映す。まぁ、これがテーマですと。これを見れただけでも鑑賞してよかった。映像にはパステル調の加工がなされていると思う。映画と直接関係ないのだが、ゲーム『Cities: Skylines』などシム系のゲームを楽しんでいるときのような光景が気持ちいい。話が飛ぶが、学校のガラスに屋根屋根が映っているのもよい。

「星ばあと邂逅するエリアの美術がちゃちい」みたいなコメントを見かけたのだが、上記のようにゲームっぽさというか、世界観の小ささとしての反映としては見て取れないか。秦野市には行ったことがないが、割と山に囲まれた箱庭的な土地のように見えた。あくまで脚色されたモノではあるが、これが大石つばめの等身大の世界なのだ。

内容の味わいとしては全然異なるが《はちどり》と同じような年齢の子が主役の物語となっており、近い時期にみた映画としてどうしても連想されてしまうのも面白かった。まぁ全然別ものなんですけど。

藤井道人監督、《新聞記者》は全然ピンと来なかったですけど、これはハマりました。ありがとうございました。

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