映画:《さよならくちびる》

公開時は迷った末に行きそびれたが、ようよう鑑賞した。序盤は物語が退屈で、これを 2 時間も耐えられるかと不安だったが、徐々に面白くなってくる。最後にはそこそこに感動したし、結末は微笑ましかった。

解散を決めたバンド「ハルレオ」のメンバーはハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)、ローディ―であるシマ(成田凌)が最後の全国ツアーをギクシャクしつつもこなしていくという内容で、ロードムービーとしての面もある。ライブは、名古屋、四日市、大阪、新潟、酒田、弘前、函館を辿ったと記憶している(大阪と新潟はどこだったか覚えていない)。

私は劇中の運転シーンがどうにも苦手で、交通事故がいつか起こるのではと不安になる。本作も同様だった。作中ではローディーであるシマがほとんど運転する。冒頭と最後だけ車中のフロントから外を映した画面が流れる。iPhone で撮影しているのかなと思うが詳細はわからない。あとはほとんど車中の人物の表情や行動などを映していたが、車を正面から映したカットがいくつか、後方から映したカットもいくつかあり、それぞれが効果的に使われていた。

移動中、外部の情報はあまりなく、高速道路の標識だったり、街の風景だったり、延々と続く田圃だったりするわけだが、それぞれに味がある。

冒頭で「全国を 7 箇所回る」かつ「最後は函館」という情報が提示されるので最初に走っているのは東名道だろうなぁ、などと楽しむ。愛知から三重、大阪までは移動がメインに扱われることはない。このあとは更に西へ行くのか U ターンでもするのかワクワクとしていたが、日本海側に出る。どこか山中の湖と森のシーンがあったが、これが美しかった。新潟から酒田あたりを走ってあいだは田園風景が広がる。よい。函館はすっかり都会の港町でちょっとドッキリする。エンディングに相応しい舞台だ。

帰りは掲示板に提示された仙台の表示で東北道と察せられ(それはそうなのだが)、ゴール直前で羽田の案内が出るのは首都高だろう。こうして東京へ戻ってくることで、本作は終わる。東北道ですべてをやり終えたあとのシマの倦怠、疲労感とハルのやり切った感がまたよい。交通事故が起きそうな運転シーンはやめてくれ、こわい。

バンド解散の原因だが、言うまでもなく人間関係の縺れだ。色恋沙汰といってもいいが、そう片付けては面白くない。人物のうち、もっともフラットでマトモな人間はシマであって、バンド継続のためにシマが身体を張った結果として諸々のややこしさが臨界を突破した。ハルは独特の悩みを抱えているが、それ以外の環境についてはよくわからない。ぶっちゃけ、音楽がなくても生きていけそうな冷静さはあり、才覚もありそう。ただし、自分の悩みの強さと才能に比例するように仲間の感覚にはやや疎い。レオは迷い猫のような存在で、バンド解散後は工場で働かないと賃貸から追い出されると笑っており、またロクでもない男に捕まる未来がみえる。そう考えると、むしろ 1 番に音楽を必須としていそうなのはレオなのだが、この辺がまた上手い。全体の構図はハルが中心、シマとレオを錘にしたやじろべえのような体裁だろうか。

ハルレオ、作詞作曲はハルが担当しており、レオにギターを教えたのもハルなので、バンドの支柱は間違いなく彼女だ。一方、ライブ会場ではレオへの歓声のほうがやや多くなっている。そういう演出がなされている。トークも基本的にレオから始まるようになっており、外向けの体裁としてはレオが顔役みたいになっているところもある。この関係性の問題も扱われており、バンドによくありそうだなと笑いながら見られる(笑えないけど)。

作中で披露される曲は 3 曲あるようで、秦基博とあいみょんが提供している。歌詞が絶妙でよい。作品に合っているともいえるが、よい意味で個性がなくギリギリの抽象性が紡がれている。Spotify で何度か聴いたが、どこのサブスクリプションサービスにもあるのではないか。

門脇麦、個性が強いし、表情がいろいろとある。バレエをやっていたからだろうか、首筋のフォルムが美しすぎる。他の作品を 2 つくらい見ただけだが、もっと追ってみたい。

小松菜奈、初めてみた。キャストでは先頭なのでメイン人物は彼女という企てはあったのかもしれないし、実際のところ、そのように考えるのが自然な気もする。前述のように、レオが音楽をやる理由こそが本作のひとつの答えにもなりそうだからだ。彼女は Wikipedia によるとダンスとフルートが得意だそうだ。門脇麦よりも 8 cm も背が高いらしい。どちらも、へぇと思う。

成田凌、《愛がなんだ》では役柄のせいもあってよくわからんなと見ていたが、本作では好感触だった。本作でも半分くらい何だかよくわからない人間なのだが、こっちのほうが現実と虚構のさじ加減が私の好みだ。大人っぽいことを言えば、ロマンチズムに浸ったセリフも吐く。尊い。

総じて満足だった。