2022年の年末くらいに《ファイブ・デビルス》を観た。感想をアップしておく。ところどころ記憶があいまい太郎だが、許してください。
妙に色気を隠さない(映像的な意味で)母:ジョアンヌ、セルビア系(だっけ?)の父:ジミーを両親に持つ少女:ヴィッキーは、嗅覚がちょっとだけ異常に強くて、森の中でも母を秒で探し当てるし、ガラスの小瓶にいろいろな匂いを集めている。いわば変態であって、学校では、いじめられている。そこに父の妹であり、母の元恋人である叔母:ジュリアが数年ぶりに帰省してくる。
人間関係が妙な方向に転がりだす。
今作の最大の問題にして、気になるポイントは、娘のヴィッキーにも彼女の生誕以前のジュリア追放劇の一端が担わさせられていることにある。この事実、この設定が明らかになってくるにつれて、スクリーンを眺めている私にとっては相当に残虐、あまりに非道である作品だなと感じられた。言い過ぎかもしれないが、この絶望感はエヴァンゲリオン劇場版のような程度があった。で、面白くはあるが、どうしてこういうお話にしたのだろうか。すごい。不愉快がすごい。感動すらする。
子供にこそ妙な加害性というか、ほろ苦いでは済まない程度の、運命のようなものの不可逆的な残酷さを抱かせる海外映画、あんまり印象にないので、やっぱり感動する。後味は最悪だけど。
このことは、一旦置いておくとして。35mmフィルムで撮影されたというフランスの田舎町の風景や、それぞれの人物の動き、不穏な雰囲気が最後まで残っていたカットのひとつひとつは、それはそれなりに面白かった。
原題にあたる英題および仏題は、”The Five Devils” (Les cinq diables)だそうで本題はそのままだ。私は気づかなかったのだが、舞台となる村落の名前がこれらしい(実在はしないんだろう)。しかし、メインの登場人物が 5 名いるので、彼らがそれぞれ悪魔、ということと思う。
こんな酷な話、なんで思いついたんだろう。
叔母と姪の宿命のような
公式ページなどでは「タイムリープ」と言っているけれど、これ「タイムトリップ」ではないのかしら。ヴィッキーの意識だけが飛んでるという体でもないので。まぁどっちでもいい。しかし、また、この時間移動で相互に存在を認識できる対象がヴィッキーとジュリアだけなので、SF的な時間旅行というか、ファンタジーかオカルトあるいはホラー寄りの描写ではあった。
次いで、このタイムトリップは、ヴィッキーの異常な嗅覚、それ単体では実現せず、ジュリアの持ち込んだ(ヴィッキーが彼女から盗んだ)薬液が必要となる。ジュリアの仕事とは、なんだか薬品関係かしらぬがそういう匂わせはあり、また「すべてはわかっている」というような警告からも彼女は起こることの結末までを半ば自覚し、判じていた節がある。
だとすれば、彼女は何が起こるかを知っていながら、恋人を取り戻しに来た、と言えよう。作中では明確にはされないが。この不条理な雰囲気は、直近でいえば、微妙に《ヘレディタリー/継承》やジョーダン・ピールっぽい作風のようにも映った。
ヤバい女2人に振り回されたひとたち
ジミーも、顔面火傷を負った彼女:ナディーヌを捨ててジョアンヌを選んだクソ男のような雰囲気があるにはある。が、なんともなぁ。最終的な展開を見ていると、恋人を失ったジョアンヌがジミーを誑し込んだように思えて仕方ない。
ヴィッキーという運命的なイレギュラーこそが物語の鍵ではあるのだが、ストーリー全体としては所詮、ジョアンヌとジュリアの 2 人の愛のなんとかに巻き込まれたひとたちの悲劇にしか思えない。念のため、同性愛が悪いと言っているわけではない。
繰り返しになるが、子供であるヴィッキーがカギになってしまっているのが本作の気持ちの悪さであり、なんならオリジナリティを感じる部分ではある……。
幼少のジュリアがおそらくは 2 回だけ映る。で、2 回目の登場が判断しづらいが、彼女はその情景をみた(知っている)ので、ジョアンヌ奪還計画を実行したんじゃないか、と結論づけられるが、それでもやっぱり自分勝手だなという印象は拭えない。痛み分けのつもりなんすかね。
ヴィッキーはどうするんや
なんか自分の感想が定まらないなと、いろんな方の感想をみていたのだが、母と叔母の愛のあり方やヴィッキー自身の存在の肯定性みたいなところ、率直に受け取ったというようなポジティブン気味の感想も多く、あぁ意外というか、自分が根暗でネガティブなだけなのかもと思わさせられる。
いや、しかし、どう考えても叔母と姪のトリッキーな因果を軸にしておいて、結論としてヴィッキーがなにかに納得したり、克服したりしたようには見えないし、人間が必ずしもキレイな存在である必要はないけど、この話のどこにどういう希望のようなものが示されているのかは、やっぱり個人的にはよくわからん。
観てよかったけど、もうあんまり見たくはないというか。何を求めるかと言われると、やっぱり代償を負わされているのがヴィッキーだけでしかないように見えるのが不愉快なんだわ。
いや、なんか解釈に間違いがあるんだろうなぁ、これ。凄い映画でした。また、いつか見るよ。
Last modified: 2024-01-16