『ゴールド・ボーイ』(黄金少年)を観た。まったく面白かった。
原作は中国の小説『坏小孩』 (悪童たち)とのことで、2020年に中国でドラマになって話題になったと。ドラマのタイトルは「隐秘的角落」だそうで、直訳としては「隠された角」があたるようだ。ドラマの英題は “Bad Kids” だそうなので、これは原作に寄せたんだろう。
以下、作品の展開を示唆する文章なので、まだ見てない方は読まないほうがいい。
面白かったからこそ、気になった点をいくつか先に書いておく。
タイトルへの不満というか謎
邦題がまったく謎で、怒りが湧くほど、ですらある。私は声を大にして言いたいのだが、なんでこんなタイトルにしたんだろうか。ほかの鑑賞者からは「展開が読めない」といった感想があるのを数点目にしたし、そう感じながら見ていた方も多かろう。
あるいは X にある感想には「タイトルがうまくミスリードを誘っている」という評もあったが、ミスリードもなにも、展開としては、このゲームの勝者が誰なのかが問題じゃん。で、つまり、タイトルが示す通りの結果以外にないじゃん。仮にもミスリードってのなら、もう一歩「黄金少年」に意味を持たせてほしい。悪い方に外してミスリードしてるだけなんだよなぁ。金のことなんて別にみんなどうでもいいでしょ…。
で、ほかのポストで見かけた情報(発信源は未確認)だと、スティーブン・キングの「ゴールデンボーイ」から借りたタイトルらしい。へぇー、読んだことないな。って、あらすじを確認したけど、全然、本作を想起させるところが無さそうなんだよなぁ。どうなってんだよ。
いや、映画自体はとてもよかったよ。結果はわかってると言いながらも、要所でハラとさせられるところはあったよ。でもさぁ、なんでこのタイトルにしたんだろうか。
少年が勝者になることを前提に見ろってことなんですかね。それ以外にちょっと思いつかない。あるいは、サスペンス的な要素は意識としては脇役で、あくまで彼の物語、青春感か知らんが、そういうニュアンスが強いのかなぁ。わからないなぁ。うーん。
たとえば、これがドラマとか、あるいは小説や漫画などの連載作品ならいいとも思うんですよ、焦らされる時間があるというのがひとつ、そして後者であれば製作者の意図を超えて展開が変わりうるから。こちらも付き合う楽しみがあると言える。でも、今回は2時間の映画なので、もうそこに収束するしかない。
おぉ、沖縄よ
本島に限るようだが、舞台設定が沖縄なんですよね。実に巧妙なんだけど、歯痒い面も大きい。まず、日本人の多くにとって、それなりにエキゾチックな土地であることはおそらく疑いがない。そしてその経済や家族形態、米軍基地という異物なんかが物語にもモチーフにも、テクニカルに、かつテキトウに使われている。実にそれっぽい。
それってどうなんだって。
フィクションと現実をないまぜにしてはならないが、沖縄のひとが本作を楽しめるのかは気になったし、仮にこの舞台を東京や大阪、あるいはほかの都市にしたとき、どうなるかというのは鑑賞中に妄想せざるを得なかった。感触として連想しうるのは『天気の子』みたいなことになるのかね。時代を辿れば、もう少しイメージが近い作品もありそうだが。
ただ、沖縄なのにいわゆる標準語なんだという指摘はいくつかあって、これも当然作る側はわかってやってるんだろうから意地が悪いが(意図はわかる気がするけど)、幸か不幸か、この点にはわたしはまったく気が回らなかった。
あと、事件後のオチを作るためのギミックだが、ほかの細かい点は気にならない、見逃すとしても、これは少し気になったので言っておきたい。
夏月が朝陽宛てに出した手紙が安室宅のポストに投函されており、それを母が発見することで事実が露見する。この期間は、さすがにウソが気になった。最後の事件の計画から実行までおそらく長くても7日前後だとして、事件後最短でも2日(短すぎると思うが)は経ってからのこととすると、夏月が出した手紙は、沖縄本島内で短くとも数日間は彷徨ってたことにならないか。
あるいは、ポストに投函されたまま気づくのがあの時点であったという説明が成り立つだろうけど、えぇーって感じじゃない?
要はリサーチなんだよな
朝陽が見た目や立ち振る舞い以上にクレバーな人物であることは、ちょいちょい示されており、最後は「リサーチが」といって鑑賞者を震撼させるが、そこの描写はあんまりされないんだよね。もちろん、本筋も、あるいは伏線の事件も。こいつ、何をかリサーチしたんやろか。
いや、作品はまったくおもしろかったが、上記のオチも含めて、リサーチってか運の良さか詰めの甘さが割とあるんじゃねとなる。まぁ、これは御愛嬌なのか、あるいは結末のように、あくまで彼は少年であったという点が着地点なのか、これもわからん。が、ここまでくると本作の味わいは之、というような気もしてくる。
黄金少年の本当の意味とは
いやね、知ってたよ。
本作ね、主人公は夏月なんですよ。ラストのモノローグがそれだし、エンドクレジットの倖田來未の謎の歌が完璧にそれを示唆している(知らんけど。歌詞をちょっとだけ確認したけど、やっぱそうでしょ)。だからね、倖田來未の音楽に文句を言っている感想もいくつか見たけど、まったく本分をわかってないね、君らは。
そもそも「少年」というとき、すなわち男子と連想した私の語彙力と想像力の貧困さに原因があった。そう、黄金少年とは、夏月のことであったのだ。
そもそも、今作のすべての発端は無実の罪を問われた実の父を失った少年が、義理の父に襲われたという悲惨な現実にある。沖縄という狭いコミュニティのなかで、警察やらなんやらに探されるわけでもなく、あるいはご近所さんにも見逃されている(沖縄だからなのか?)ような状況で廃屋とはいえ、野宿生活を少年、兄妹は続ける。
そういった限界的な状況のなかで、少年はとってもステキな少年に出逢えた。その少年がとんだサイコパスのなりかけであっても、少年にとって彼は救いであったし、短い時間とはいえ、だからこそ彼を救えないかという思いに至る関係にすらなったのだ。
この幸福な時間が、体験が、黄金でなくてなんだというのか。彼女の魂に皆救われろ。
その他のことなど
- 沖縄関連でいうと、やはり謎の作品であった『怒り』も連想しちゃうね。
- オープニングの海がめっちゃ綺麗で、ドローンでの空撮と思うが、さざ波が映える水面に癒されていたら、不意に黒いテクスチャに緑の断片が混ざる画面になった。すわ、マトリックスかなと思ってドキドキしてしまった。めっちゃよかった。
- 岡田将生、もうこういう俳優なんだよな。すごいよ。特に私服のコスチュームがよい。許せる。いきなり激情したけど、子供の前で喫煙しないのもよい。お前も詰めが甘いんだよなぁ。目の前の敵は、金メダルやぞ。お前は銀だ。
- 黒木華、最後にすごい演技だったな。なんか聞いたことある文句だったけど、息子を懐柔するには十分な機転だった。
- 松井玲奈、気づかなかった人もいたんじゃないの。私も最初の江口洋介との会話のシーンが終わるくらいでようやく確信に至った。芸能活動を続けてたのは知ってたので、もう少しワイドなステージで活躍してほしいね。
- 江口洋介、昔はもっとがむしゃらな演技だった気がするけど、味が出てきたよね。北村一輝もそうだが、役作りもあるとはいえ、毛髪のボリュームが減ったのに時の流れを感じる。
- 少年らはみんなよかったね。
Last modified: 2024-10-07