2024年の秋アニメ(?)だろうか。アニメオリジナル作品の『ネガポジアングラー』を全話視聴したので感想を残しておく。いや、これは近年で比べると頭ひとつ抜けて面白い作品だった(というか、完走できないことが多い)。こういう作品が見たいんだよ、というニーズにほぼストライクで提供されたなという感動がある。ひさびさに最後まで走れたこと自体が、まず嬉しい。
ネガティブからポジティブへ
「ネガポジ」とは、どういう意図のタイトルなのかな?とずっと思っていた。主人公:ツネヒロがネガティブであることはたしかだが、全編を通しては、あんまりポジティブさが簡単には染みてこない。タカアキをはじめ、ハナなど、エブリマートの面々はそれはポジティブではあるのだろうが、かといって釣りを通したツネヒロと彼らとの交流がポジティブなのか? というと限りなくフラットであるように思え、ポジティブさを狙うような魅せ方は、視聴体験としては大して強く残らなかった。
だが、ジワリジワリと来ていたのだ。第10話を転換として物語は収束に入っていくが、よくよく考えると全体の運びがスムーズで笑う。冒頭から大いに疑問であったツネヒロに纏わる設定の回収は、実にダメ人間らしい店長マチダのアホな失敗をキッカケにして無様にも前面化してくる。ツネヒロの魚捌きが、ちょっと巧くなったらしい描写を添えてだ。テクニカルだねぇ。
要所で示唆されていたタカアキの過去も、なるほど原因はわずかな尺で足りる程度ではある雑さ、かつ強烈さは減じない程度の内容ではあり、それぞれの抱える問題から顔をそらしてきた2人が絶妙に交わる。
ともなって、周囲のナカマからも、ツネヒロは普段はネガティブな態度だが、この半年ほどで、ポジティブさが出てきたと、ぽろりと語られるのであった。
そうか、ツネヒロ、お前、前向きになったんだなと…、むやみに感動する。
全12話のなかでエブリマートの7名(ツネヒロを除く)をメインゲストのように据えた回が、およそ各1話ずつあって、もちろん内容はただただ釣りをするだけだが、次第に釣り場に立つツネヒロの姿に、彼本人からも視聴者である私からも違和感は減っていき、ツネヒロからは釣りに対するネガティブな態度はなくなっていった。作品の上手さについて語っている。
結末に向けては、言うまでもなくタカアキの助けがあってこそと強調せざるを得ないが、エブリマートでの仕事と生活、釣りを介してツネヒロは癒やされていったわけで、そこに私もいつの間にか助けられていたんだなと気づく。
太陽の娘、ハナ
さて、タカアキとツネヒロのごく当たり前の関係の整理によって感動する私がいるわけだが、もうひとりの主人公ともいえるハナについて触れないわけにはいかない。本作、ハナの奔放さ、彼女を中心とした作画の奔放さが最高にイカしているのである。
一般的な呼称があるのかわからないが、クレヨンしんちゃんのような顔の崩れ方をするのが本作のアニメ的な表現の特徴のひとつで、こういう極端とも言いうるデフォルメを挟む作品って、最近あんまりないなと気づく。「忍たま乱太郎」とか「ゲットバッカーズ」の漫画なんかは思いつくが、どうなんですかね。
生活すべてが釣りで回っているハナは、つまり本作のイデアであって、周囲におかまいなしにコロコロと態度や表情、そしてデザインが変わる。髪の毛の表現も自由で好かったな。下ろしているときもいいけど、団子にしているときもよい。最高であった。
そんなハナではあるが、おそらくエブリマートでは1番距離の近いタカアキ(生活すべてにおいてそうかもね)と、そして謎の闖入者であるツネヒロとの絶妙なこじれに、釣りを介して啓示を与えるのである。まぁ、釣りアニメなのでそうであるべきだし、それで当然なのだが。釣りをしていれば、ともに楽しむのなら、ハナにとってはそこに垣根はない。
第1話で取り立て屋から逃げるツネヒロと、釣りから楽しそうに帰るエブリマートの面々が、橋上で交差したシーンが印象に残っているので、12話の最後のハナとツネヒロの対話がなおさら染みる。視聴開始時、この楽しそうな釣り人たちの輪に、なんか人生詰まってそうな男の子がどうやって交じっていくんだという不安が生じたことが喚起されつつ、その最後には、釣り仲間をあくまで明るく送り出す無垢さ、天真爛漫さ、それがハナである。
釣りは人生である、そして人生とはネガポジである
私自身は遊びで何度かしか経験のない釣りだが、アングラーはときとして釣った魚を海なり河なりに戻すワケだが、いずれにせよ魚は生きるために必死に餌とりをしているのだ。それに対峙するために釣り人は試行錯誤するし、あるいは時には釣った魚をいただくわけだけど、そこにはどうしようもなく真剣なやり取りがある。
そんなことは、およそ真面目に取り組まれるいずれの活動についても言えることだ。そうではあるが、誰しも遭遇するだろう生きていくなかでの行き詰まり感を、特にクライマックスにおいては、ツネヒロが投げては戻すを繰り返す仕草こそが、その苦難のなかではもがいて試行錯誤を繰り返すための勇気づけになりはしないか。
ツネヒロの苦しみもタカアキの苦しみも解決も、多くは語られないが、作品としては彼らが立ち直ったことで十分であった。10話から12話は本当によかった。そのための9話までがあったということも、よくわかる。
その他のことなど
こずえちゃんは、序盤のMVPでしょうね。ツネヒロを釣りから後戻りできなくさせている。本作はサブキャラクターたちの役割分配がかなり丁寧で、中盤以降は存在感がない彼女ではあったが、最後の展開ではうざったい賑やかしとして笑わせてくれた。
町田さん、ダメ人間代表選手として大いに活躍。絶妙なバランス。すごい。店長としての最低限の仕事は(おそらく)しているのだが、この人ほんとにダメ人間だな、現実にこういう大人が居るよなという感覚にさせる描写が巧みであった。
藤城さんは、所ジョージが元ネタだよね? あんまりわかりませんが…。自由な釣り人(&資産も潤沢っぽい)という点で彼を連想せざるを得ない。あんまり前面に出てくることはなかったが、なにかと気になる人物である。
アイス&アルアの姉弟は、これもまた絶妙なキャラクターだったな。もちろん、いい意味で訪日タイ人であるという点でキャラが立っているし、アイスは普段はほとんどのシーンでデフォルメ体だし、アルアはイケメン長身料理人だし、便利すぎる。
特にアイスは、ほのぼの釣りアニメで終わりかけた内容にちょいと捻りをきかせる立場としてはこれ以上に適切な役回りもなかったろうと納得させられる脚本であった。中盤からのMVPですね。
よかった、よかった。
Last modified: 2025-01-14