2023年の年頭に《怒り》を観た。公開当時、それなりに話題になっていたように思うが、見ていなかった。ちょいとあとだが、同じ時期の《愚行録》は劇場で鑑賞して、こっちは面白かった割に話題になっていないかったので、なにかと不公平だと勝手に感じていた。何者かに一家が惨殺されるという事件がキッカケになっている部分が地味に重なっているのだよ。

で、《怒り》だが、映画としてのまとめ方が非常に巧い。3か所でそれぞれ進行するストーリーが、逃亡した殺人犯との関連性という 1 点のみで緊張感が保たれるわけで、これ下手な演出だったら B 級っぽくなるだろうし、あるいは意味がわからなくなりそう。3 つのそれぞれの話に意味があって、それがいずれも過不足ない。あくまで映画の中の話ではあるが、嘘くささも強くない。

画面も飽きない美しさが続くし、なんだこれ天才か。

で、一方のストーリーは、ぶっちゃけよくわからん。彼が「怒り」と記したそれは彼にとっての正義だった、程度の話なんだろうけど、それにしちゃその狂気は、役者の演技は与えられた範囲のなかでは十分ではあったろうが、なんか満足できない。それくらいのバランスを狙ったのかとも思うが、原作から乖離しているわけでもないようなので、原作のパワーがここまでだったのかな。

または、事件はストーリーのキッカケで、いろんな怒りの描写のひとつに過ぎず、作者がこれと思った「怒り」の事象を群像劇的に描いたのが本作なのかもしれない。

さまざまな怒り

なんか怒り

他人を見下すことでしか自分を保てない本性は普段は形を潜めていて、なんか都合のよいシーンでそれが爆発するということなんかね。あるいは自分の無力さを無意識では気づいていて、それをうまく解消できない?

まっとうな怒り

事件、悲惨である。彼女の怒りと彼の怒りは、どう解決のしようもない。ていうか、母が気づかないはずはないと思うんだが、その辺は、汚いようでいてキレイに胡麻化され、隠されている。

あとこの出来事は、社会的な問題でもあるので、他人事とは言えない。以前よりはこのケースは減っているようではあるが。

分かり合えない怒り

この 2 人の関係は、まったく美しく、墓前の 2 人のシーンはまったくよかった。何かの記事でたまたま読んだが、わざわざホテルで同棲してまで役作りしたらしい。この映画をみて良かったなってところだ。やっぱ、妻夫木よ。

冒頭、割とこの 2 人の関係が強めの印象になるので面食らった。これも苛立ちの部類と思うが、反転して怒りになっちゃう人はいるんだろうか。詳らかには書かないが。

信じられない弱さへの怒り

キャスト上、主演は渡辺謙ということになっているらしいが、この関係の話がもっともフラットで、印象が薄いということも無いが、特別感もない。それが悪いわけでもない。ただ、彼を責めるわけではないが、あまりにもナイーブすぎるよな、冷静になると。まぁ、反社は怖いから仕方ないな。

しかし、ひさびさに宮崎あおいをみたけど、やっぱり替えの利きづらい俳優だな、彼女は。

と、テキトーに書き散らしたけど、原作を読んでみないことには本作の勘所はわからないだろうかねぇ。読むことも無さそうだけど。

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