フワッとした悪の組織を突け|『北北西に進路をとれ』《North by Northwest》

ヒッチコックマラソンです。『北北西に進路を取れ』《North by Northwest》を観た。1959 年の作品だ。『三十九夜』をハリウッドでやろうとしたという情報を Wikipedia で目にしたが、『サボタージュ』などを挟んでいるので真意がイマイチわからない。

本作は特に評価が高いらしいが、これはヒッチコック流のアクション、サスペンスの集大成としてが 1 点、そしてタイミング的には今後量産されるようになるアクション作品群のフォーマットとなった点が大きく評価されているのではないか。

作品の全体感としてはなかなか難しい。なにせ内容が無い。

例によって巻き込まれ型の物語したはいいが、最後まで主人公:ソーンヒルが奮闘する理由がレディを救うためだけという-真っ当ではあるけれど、過去作と比較してもかなりパーソナルな理由に絞られている。

悪いというわけではない。この点は『三十九夜』や『サボタージュ』とは異なると思われる。これらの物語は、同様に巻き込まれ型のストーリー、かつ主人公とヒロインが道中で危機に陥るという点こそ同じだが、枠組みとしては社会的に大きな陰謀に直面して主人公らは動いていた。

上記の作品に比して、本作の敵役のバンダムは闇商人ということだったが、作中では具体的な犯罪的なマターは発生しておらず、明示されない。逆に、ヒロインらの組織は骨董品に秘蔵されたフィルムを回収しようとするが、それがどのようなものであるかもどうでもいい。

また、バンダムのグループだが、序盤からして杜撰なのもよくない。どうして主人公をターゲットの諜報員:カプランと同定したのか根拠がない。ヒッチコック作品では、このパターンが珍しくないのだが、つまりはミスまたは偶然による事故が発端となるのだが、肩透かし感は否めない。結局、バンダムらはソーンヒルが彼らの利害にまつわる係争には本来まったくの無関係の存在であったことには最後まで気づいていない。どれだけマヌケなのさ。

まぁ、ただ、敵がどうこうってのは本作ではどうでもいい。結末の放りっぱなしさ加減をみても明らかでしょう。

ヒロインを救うことにのみ注力する

この観点から見ると過去作としては『汚名』が近い。『汚名』ではクライマックスで主人公は、スパイとして敵地に潜り込んでいたヒロインを職務を捨てて救いに行く。

だが、こちらの彼にも大義名分があった。しかし、繰り返しになるが『北北西に進路を取れ』では、そんなことはない。単純に、レディを救うために命を懸けるのである。

中身がない物語におけるソーンヒルという主人公はどういう人間なのか。

どれだけスケコマシなのか

ひとつに、ソーンヒルはマザコンなのだろう。主人公の母親がガッツリ登場する過去作はあまり例が思いつかないが、どうだろうね。このあとに続く作品だと、実はこのテーマが採用され続ける。また、ヒッチコック本人と母親の関係も、よくクローズアップされるようだが、それはここでは置いておく。作中でのソーンヒルと母親との関係は良好そうだった。

しかし、ソーンヒルが結婚と離婚を 2 回も経験していることを考えると、この母親は少なくともあまり良い義母とも言えなかったのではないか、とも疑いやすい。そうでなければ、ソーンヒルが相当に夫としてはダメ男か。あるいは、双方にとって馬の合わないパートナー選びをしてしまうケースが連続したのだろうか。

彼のスケコマシ感は、オープニングの秘書に対する態度でも察せられるが、クライマックスで治療室から抜け出した際にも差し込まれていた。笑わせたかったシーンなんだろうか。よく分からない。

イヴは彼のどこに惹かれたのか

自分のために命を張ってくれたんだから、それは惚れるでしょう。というのは結果論で、ニューヨークからシカゴへ向かう列車のなかでソーンヒルと初対面したイヴは、流れで男女の関係になる。この時点で惹かれていたとは断言できよう。

だがその後に彼女は、組織と調整をした結果としてソーンヒルをハメ殺す手続きを取った。その後、ホテルで再開した時点でもボロは出していない。この時点ではソーンヒルに惹かれていたとはいえ、後戻りできないところにはいなかったのではないか。

転機はどう見てもオークション会場で、ソーンヒルはイヴを罵ってみせ、彼女はそっと涙を溜めた。どういうことやねん。そこで惚れるのか? いやー、わからないな。もう 2 人の心情は当人同士にしかわからないんだろう。想像を働かせるのもバカらしい気分になる。

台詞のやりとりを解読するしかない。たとえば、ソーンヒルがバツ2男だと自嘲したときに、「逆にそんな男しか結婚なんてできない」みたいなニュアンスの返答をイヴはした。これも深読みする意味があるのか定かではないが、まぁやっぱり、それだけ作中ではソーンヒルがどうしようもなく魅力的であるという解釈には繋がるのかな、しっくりはこないけれど。

コーン畑での交流がおもしろかった

騙されたソーンヒルが田舎のコーン畑でカプランを待つシーンが印象的なカットだった。道路の対面に立って地元のオジサンと向かい合うシーンは、とってもキマってて、かつすごく笑えた。マジメだけど、その分だけシュールだよね。

ちなみに、この向き合う構図はクライマックス付近でのソーンヒルとイヴの面会でも再現されていた。こちらは荒野ではなくて、生い茂る林中である。意図的なんだろうけど、それは明確ではないだろうね。好きだけど。

謎の飛行機に追っかけ回されるシーンも、なんやかんやで謎の緊迫感がちゃんとあるよね。流石なんだよなぁ。

という感じで、ヒッチコックマラソンも終盤戦に入ってきた。