『BLUE/ブルー』を観た。松山ケンイチ、東出昌大、柄本時生などが出演している。松山ケンイチは『ユリゴコロ』以来、東出昌大は『寝ても覚めても』以来、柄本時生は初めて目にした。作中での柄本時生は、あのフニャフニャ感が凄い上手いなぁ。

吉田監督の作品は『犬猿』(2017)は見たことがあって、あまり記憶になかったので粗筋を追ってみたが、オチの部分で違和感を感じて終わったことの印象を、なんとなく思い出した。けど、この作品も印象的なシーンや配役はめっちゃキマッてたね。なお、監督の「よし(吉)」の字は「土」のように下の方が長いほうが正式っぽい。

監督自身のボクシング歴が 30 年以上とのことで、主要登場人物の三者三様なブルーなボクシング人生を、実にうまいこと描写し切っている。終劇に至っての小川の状況は悲惨と言えるが、謎の清涼感で誤魔化されてしまう。こんな感じでボクサー自身もボクシングの魅力に取り込まれているのだろうか、などと思ってしまう。

ヒロインといっていいのか、木村文乃も出演している。彼女はとても好きな俳優なのだが、印象が定まらない。今回も終わってからキャストを確認して本人だと認識できた。言うてみれば作中の中心人物でまともな大人って、彼女くらいしかいない。どのシーンも好いけど、後楽園ホール(だよね?)のカウンターで前の 2 人のイヤな話を耳にしながらも佇んでいる姿が良かったです。

天野は小川と付き合っているが、瓜田とは同窓の間柄であり、という三角関係的な要素も、映画全体のよいスパイスになっていた。なにかと後腐れのような雰囲気とはかけ離れた出来になっているのは、本当に好い。楢崎の失恋にしてもそうだった。

ふらふらと揺れるカメラが心地よかった

いわゆる手ブレ演出っていうのかね。カメラがふらふらと揺れる画面ってあるけれど、この手法って使いどころが難しいように常々感じていて、見せる側の意図以上にノイズとなってしまっているケースもあるように思う。

本作、このふらふら画面が割と多発したと覚えているが、これが妙に味を出していて好きだ。揺れる速度や幅などが内容と調和してるのかな、なんか無駄に揺れてイヤだなぁと感じさせられるシーンがまったくなかった。

言うまでもなく、これは試合のシーンではなくて日常シーンでのことだ。単純に不安、不安定さを意図しただけとも取れ切れず、さりとて単に視聴者の視線を揺さぶってやろうという印象でもなかった。

この感覚はまた体験したいな。なお、撮影は志田貴之ということで、志田さんは吉田監督の作品には多く携わっているようだ。ついでに、監督自身が殺陣の指導をしたという試合シーンのカメラワークももちろん好かったよ。

カラッとした人間関係が気持ちいい

私は個人競技にあまり馴染みがないのだが、ボクシングをはじめとした格闘技というのは、趣味で続けるにしても伴う真剣さの水準というのは、ちょっと高めになりそうだ。

瓜田と小川はかなり長い付き合いのようだが、それを加味してももちろん、お互いを認め合っており、ステキな人間関係だ。あるいは、怪我をさせてしまった楢崎と被害者の洞口との関係も、必要以上に深刻にはならずに解消される。

本作においては人間関係のネガティブな面は最小限にオミットされたと考えればいいのだが、それ以上に、同じ競技の魅力に取りつかれたバカたちの緩い連帯みたいなのが気持ちいい。

楢崎と小川なんていうのは、ほとんど接点が描かれないが、デビューで緊張する楢崎にさらっと声掛けしてやる小川は単純に清々しいし、計量後の蕎麦屋でちょいちょい駄話に花を咲かせている(大したこたぁないが)シーンは本作で 1 番好きでしたね。

本当の強さとはなにかね。その思いは最後のシーンに籠められているのではないかな。「ブルー」というタイトルが染みてきた。

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