2020年 8月の Amazon Prime に『七つの会議』がラインナップに加わった。

シーズン 2 が放映中のドラマ『半沢直樹』との相乗を狙っているのか、このタイミングを逃す手はない。本作との関係としては原作が池井戸潤、監督(演出)が福澤克雄であることが重要で、内容に繋がりはない(同原作の『下町ロケット』も同監督によって映像化されている)。

いずれの原作も私は未読だが、半沢の 1 シーズンは楽しんでおり、映画『祈りの幕が下りる時』(2018)で福澤監督のファンになったので『七つの会議』は映画館で鑑賞した。

福澤克雄だが、ドラマ『3年B組金八先生』の第 4 シリーズから演出に参加しており、私は 第 5 シリーズ、第 6 シリーズは視聴していたので、この時点で出会っていみたいだ-当時は演出に興味など欠片もなかった『祈りの幕が下りる時』で好きになったのは、劇中に登場した遠景のカットが心地よかったからである。

豪華なキャスト

監督にまつわる話となるが『七つの会議』では主な出演者が「福澤組」-という通称が通用するのか知らないがネットメディアの記事で見かけた-で固められている。本作では、香川照之、及川光博、片岡愛之助、北大路欣也などだ。説明するまでもなく、半沢シリーズにも登場する面々で、もはや作風と言っていいレベルの枠組みが整えられている。ここに主演の野村萬斎が加わるという贅沢さである。

その他の出演者も豪華で、橋爪功、小泉孝太郎、吉田羊、役所広司、土屋太鳳などがいる。橋爪功こそ登場シーンは多かったが、小泉孝太郎以下の 4 名は、ほんの少しのシーンの数カットにしか出てこない。よく出演したものだと思うが、それだけ魅力的な作品だということだろうか。こちらも贅沢である。

好きなシーン

ここでは好きなシーンを個別に列記していく。

工場

登場するトーメイテックという会社、およびその工場だが、北関東は群馬県の前橋にある設定となっている。映像としては高崎線沿いの道路であったり、工場の空撮映像であったりだが、これがいい。関東平野の平べったさが存分に発揮されている画作りだ。

同工場の部品倉庫もよく、卸用の管理倉庫なのでやたらと広い。作中では営業一課の浜本(朝倉あき)がここを駆け回り、主人公の八角(野村萬斎)が速歩で彼女らを追いかける。まぁなんてことないシーンではあるのだが、倉庫の広がりと奥行きができるだけ感じられ、なんてことないシーンなりに緊張感がある。

墓参り

とあるシーンで八角が墓参りをするが、お話の筋的にこんなところにお墓を建てるような登場人物か? という疑問が浮かぶ。ところで、そんなことはどうでもよくて、いわゆる墓地でこのシーンを撮影するよりも、よっぽど画面映えするのである。青々とした稲を風が撫でていく田園風景は最高に気持ちがいい。

会議室

クライマックスに登場する会議室、やたらとデカい。この部屋を、およそ 8 人という少人数で使っている。対面した座席間は人数に比してバカみたいな距離になっている-もちろんそれも狙いだが、相対者同士の心理的な距離感の演出とともに、一種のマヌケさすら匂わせている。

八角を含めた同社の 4 人が横に並んで着席しているのを正面から移したカットが本作で 1 番好きだ。そもそも八角の所属する東京建電内での対立が描かれていた前半から、今度は彼らの一団が親会社と対峙することになっている矛盾がこの 1 シーンにバシッと収められている。『赤ひげ』の食事シーンすら思い出した。

ちなみにこの会議室は、埼玉県さいたま市中央区保健センターの会議室らしい。 さいたま市ホームページの貸し出し実績 にも掲載されている。本作のロケ地については調べると多くが割り出されているので、おもしろい。上記の工場、およびその本社も、設定とほぼ同じ場所にある企業の施設を利用しているらしい。

歌舞伎と狂言

半沢シリーズの視聴者が「この演技はもはや歌舞伎」みたいなことをツイートしているのを何度か目にした。実際のところ、本作でも香川照之と片岡愛之助(前者は紆余曲折あるが)は、歌舞伎俳優だし、今期の半沢シリーズには他にも歌舞伎俳優が出ているらしいではないか。

『七つの会議』のキャストにおいては、主演の野村萬斎の本職は狂言界の俳優だ。終始に渡って怒気を発する香川照之や片岡愛之助の役に比して、野村萬斎の役はヒョウヒョウとして彼らの怒りを逸らしていく。いずれの文化にも詳しくはないが、歌舞伎は大仰な演技、立ち振る舞いが根幹に、狂言はそもそも喜劇を主にした笑いが根幹にあるという。であれば、配役の意図はこの点にもあるはずで、面白い。

定番の福澤組の為す演出のなかに混じった野村萬斎の存在は、序盤こそ違和感の塊でしかないが、少しずつシリアスさを増してくる内容に、紐解かれていく謎に、それに見合った演技を加味していき、最後には等身大のサラリーマン-あくまでも理想のヒーロー像としてではあるが-に収束していく。なんとも気持ちがいい。

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