10月かに《Once Upon a Time in the West》(1968)を観た。《ウェスタン》と呼ばれることも多いらしい本作、新宿ピカデリーで上映していた。《Once Upon a Time in the Hollywood》の関連もあるだろう。以下の引用の通りらしい。

初公開から50年、そしてレオーネ生誕90年・没後30年を迎える今年2019年には、かねてよりセルジオ・レオーネ作品への愛と敬意を公言するクエンティン・タランティーノ監督が、本作のタイトルを引用した最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を発表する。ぜひ、あわせてご覧いただきたい。

https://theriver.jp/once-upon-west-release/

西部劇の古典的名作ということで、何の前知識も下調べもなしに見にいった。座席に座っているひとの数はまばらだが少なくはなく、映画好きそうな方たちが多い。ところどころカップルがおり、これまた数奇なカップルらだなと敬いたい気持ちになった。

監督のセルジオ・レオーネの他に原案には、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチが参加とのことで、非常に豪華だ。実はセルジオ・レオーネの作品を観るのもはじめてだったのだが、本作の藝術映画っぽさは、ベルトルッチの要素が強いらしい。また、当時にしても長尺の映画だということで、各地では短縮版(2時間45分)が上映されることが常だったそう。今回はオリジナル版(2時間55分)だったが私は初見なので、どこがどう編集されていたのかは当然わからん。

長くはあったけど退屈はほとんどなく、実にエキサイティングな体験だった。冒頭、誰も寄り付かないような荒野にポツンと立つ駅舎、線路のカットが映るまで駅舎とも気づかれないようなボロ屋にガンマンが3名、よくわからんが列車の到着を待つ。強盗かと思いきや待ち人があったようで、彼らの見当違いだったのか去ろうとする。というところで、実は下車していたハーモニカとの決闘。まずは3名が亡くなる。

駅に併設されていた風車、貯水タンク、木の床の下は貯水槽かわからんが、どれも妙にかっこいい。ハットに水を溜めて飲む黒人ガンマンもよければ、蝿を払うのに意地でも手を使わないバカもかわいい。ここまでで分からないのは、彼らがハーモニカを待っていた理由で、この謎の回収には少し時間がかかる。

場面は一転、荒野に暮らす家庭がホームパーティの準備を進めている。父は金持ちになるぞ! と気合十分だが、それも束の間、ならず者らに襲われて一家は全滅する。彼らが去り際に「フランク」の名前を出すことで何らかの関係が示唆されるが、まだよく分からない。モブっぽいなと思われた父、マクベインは割と重要な役なのかな? と思いはじめた途端に亡くなるので、気が置けない。

マクベインの婚約者、ジルが荒野に降り立つシーンに移る。迎えが来ないことは私たち観客には分かっているが、彼女は事情を知らない。彼女の不安とともに開拓町の活気が描写され、馬車をチャーターした彼女の移動とともにアリゾナ州の大自然が描かれる。いい、これを映画館のスクリーンで味わえたのは最高だった。

途中の馬宿でシャイアン登場。名前だけ登場したフランクをあわせて、本作の主要人物が全員揃った。ハーモニカによる演奏が単なる演奏ではなくて、劇中のメタ的な要素を兼ねていることもハッキリする。哀愁漂う美しい音色に不気味さが加わる。馬宿の一悶着が終わる時点で、フランク一味がシャイアン一味を嵌めようとしたことまでは分かる。フランクの目的とハーモニカの目的は不明のままとなる。

徐々にマクベイン夫人(未亡人)となったジルの美しさと狙いも明らかになってくる。元々クローズアップが多用される作品だが、マクベイン家のベッドに仰向け大の字で横たわるジルのクローズアップを天幕の刺繍のパターン越しに映したカットは印象深い。また、彼女専用の劇伴があるのもおもしろい。

続いて、ハーモニカが洗濯屋のおっさんを尋問するシーン、冒頭の疑問を解決する。ハーモニカは洗濯屋のおっさんを通してフランクを呼び出す算段だったようだ。本作での暴力的なシーンはここがピークで、ネクタイを引っ張られ、壁や床に叩きつけられ、おっさんはボッコボコにされる。

このへんで何度か映されることになるハーモニカの回想シーンが入る。ぼんやりと男が歩んでくる画が浮かぶが、もちろん、ハーモニカがフランクを追っている理由を指し示す図である。1番思い浮かべやすいのが復讐劇で、親父か兄弟でもやられたのかな、くらいの想像が働く。

長くなったので、巻く。

ここまでで気になる謎は 2 つあり、「ハーモニカとフランクの関係」「マクベインが狙われた理由」となる。オチとしては、マクベインの所有していた未開拓地が鉄道敷設用の財産になるというのひとつ、ハーモニカはフランクに復讐を果たしに来たというのがひとつだ。

フランクを雇うモートンという鉄道敷設事業者は、ビジネスマンであるという人間性、鉄道や文明の象徴とし現れる。対して、ハーモニカもフランクも荒野の男たちである。そういったなかで各人物の目的や生きざま、復讐と正義、ガンマンとしての筋、男と女などなどの調和や不調和があれこれと作用していて最後まで目が離せない。最高であった。

余談だが、劇場にいたカップルのうち少なくとも 2 組は、《Once Upon a Time in the Hollywood》と間違って入っていたようで、片方は途中で退出し、もう片方は最後まで観ていたが終了後にお互いに笑っていた。

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