『ヌードの夜』を観てきた。
石井隆の没後3周年ということで、いろいろとリバイバル上映が開催されているらしいが、その一端である。監督のこともよく知らずに行ったが、経歴に目を通すと多彩というか、すごいね。テレビに出演されているのを見たことあるかなぁ。どうだろう。漫画のほうもちょっと手に取ってみたくなったが、入手のしやすさなどはどうなのだろうか。
若い頃の椎名桔平が、役作りなのか何を言っているのか聴きづらく、なんだろうなこれはと眺めていると、昭和な映画だなー(平成)という導入から始まる。1993年の映画ということなんだけど、東京の街の様子もかなり古く感じられ、そりゃ30年前だもんな、新宿や有楽町? 六本木のほかはほとんどわからなかった。しかし、主演の竹中直人も当然のように若いはずなんだが、この方はあんまり印象が変わらないな。これはこれでスゴイ。
事件発生から事の顛末まで、おそらく1週間乃至なんだろうが、あのキャリーケースとドライアイスのトリックというのは、古い映画作品か、マンガのようなコミカルさでしか許されない設定ではあるよなぁ、とはなりつつ、そこまで気にもならない。エンドクレジットでの水没した車両の引き上げシーン、なんで取り上げるのかなとアホなことを考えていたが、なるほど、最後にまたコレを見せるのかと唸った。
画面、2人が一緒に映るシーンはどれもめちゃくちゃいいんだけど、名美の部屋でのシーンは特段によい。特に、次郎が彼女の居住地を突き止めて訪問したとき、彼女を問い詰めるシーンがよかった。ここだけでも見ることができてよかったと思ったね。次点で、やっぱり波止場でのシーンもよかった。長回しで画面の奥にいく名美を延々と眺め、テトラポットに彼女は消え、男は追いかけ、あっという間に…。
なんというか、この手の日本映画あるいは文芸の水脈はぜんぜんわからないのだが、ノワールのようなヤクザ映画のような、ピンクのようなファンタジーのような作風というのはなんなんだろうか。最後の要素こそは石井隆監督らしさということなんだろう思うけど。さらに、本作には竹中直人のコミカルさも加わっており、なんでもアリの様相となる。
桐野夏生の『天使に見捨てられた夜』を数年前にたまたま読む機会があり、まぁなんというか、こういう作品が重宝される時代があったんだなという感触だったのだが、正に鑑賞中にこの小説のことを思い出した。発行年をみれば、初出は1994年ということで、やっぱりというか、この映画とこの小説は遠くないイマジネーションの中で描かれているのだろうなぁ、などと考えさせられる。
これを「バブルノワール」とでも呼ぼうかなと思って考えていたが、一応「平成ノワール」という呼称はあるらしい。なお、出典は不明である。
Last modified: 2025-06-09