『LAZARUS ラザロ』を観終えた。なるほど、そういう設定だったのか、という反応はできるけど、そうなのね…、を超えてくる結末でもなかった。好きな作品ではある。ほどよい近未来感、退廃性、アクションと音楽、ちょうどよい湿度と雰囲気があった。
まず本作、ネームドキャラクターに日系人がいないのだけど、「米国カートゥーン・ネットワークの単独出資」ということなので、その辺の配慮というか、別に登場させなくていいでしょくらいの判断と思われる。いいと思う。
大きな皮肉というか
本作、パニックものというか、制限が1カ月という条件は設けているのだが、あってないような状態になっている。各話の終わりには残日数が提示されるものの、特にそれが物語の中で重大的に機能することもほぼなく、そういった雰囲気も最小限だった。
たとえば、一般人がもっと混乱している様子とか、暴動が起こりやすくなっているとか、そういう描写はほぼない。国家なりがスキナーを捜索する雰囲気も最序盤を除いては特になく、終盤においてはアメリカ国内と対外的な闘争のほうが前面になってくる。
さらに、終わってみればタイムリミットと同時に事件は解決方向に向かったが、であれば被害もある程度は起きていたように思われるが、やはりそういった描写は無く、一件落着だという雰囲気で終わる。そういう話づくりだというに尽きる。要するに、作品全体が人類滅亡についてあんまり興味がない。翻って言えば、これはそのまま現代社会に当てはめられるだろう。
少しだけ話は逸れるが、2018年(日本での翻訳は2019年)に『Factfulness』という書籍とそのテーマが話題になった。統計的データに正しく向きあえば、漸進的ではあるが世界は、社会は改善に向かっているという。
あいにく私は読んでいないし、その主張の真贋もここでは話題にしないが、バカのようにこの主張を鵜吞みにするなら、世界に大きな影響を及ぼすような生き方をしていない私などは、能天気に日々を過ごしていればそれだけで社会に貢献しているとも言えよう。
現状、2020年以降の社会においては、目立った紛争がまた増えたように思えるし、ドナルド・トランプは気候変動そのものを否定するようなスタンスをとるし、ある程度まで経済が発展している社会の少子化は止まらない。それでも社会は前進していると(データに従って)言えるのか。
要するに、どの社会問題に対してでもいいが、私たちはおよそ無力だし、無気力になってはいやしまいか、という問題意識や前提が本作にあるとは思われる。だから本作が社会派なんだろいうと主張する気はないが、アクションに重点が充てられてそれでもこの内容でそれなりに満足できている状況、各話の話運びの基調には、こういった背景が滲んでいるだろうと指摘はしておきたい。
名前のない怪物
本作では語られなかった、明かされなかった事情などは無限にあるとは思うので、普段はあまり興味も湧かないが、設定資料集が発行されることはないのだろうか? と少しだけ気になっている。何をか言いたいかというと、双竜(HQ)である。
事件解決のカギはアクセルにあるという展開は、半ばミスリードであった。というのも、それはあくまでアメリカ国内の策謀と権力ゲームとを調停するための証拠としてであって、たしかにスキナー捜索にかかわってはいるが、直接の関連はない。
なんてこった。だが、しかし、巧いといえば巧く、この件があるから終盤もアクションシーン盛々で楽しめたこともたしかだ。そして、ここで焦点となるのが双竜(HQ)という人物で、後半は、妙に彼の背景に時間が割かれている。なんともまぁ。
彼が育った環境のキーフレーズとして登場していた「名前のない怪物」は、調べてみると『PSYCHO-PASS サイコパス』のエンディング曲として登場しているEGOISTの3曲目のシングルがヒットする。ふーむ。この作品のことはあまり覚えていないが、AIに管理された社会全体が怪物だよーみたいなことかな。通底する部分はあるだろうが。
個人的には、やはり『MONSTER』(浦沢直樹)の印象が強く、このキーフレーズそのままだったかは確認していないが、少なくとも脚本はこちらを強く意識しているだろうというのも指摘だけしておきたい。
で、本作における名前のない怪物こと 双竜(HQ) だが、中華系の施設で、そうなるように育てられた。その回想で効果的に用いられたイメージは、混沌で、中国の神話なりに登場する存在である。作中では「コントン」というよりは「フンドゥン」か「ファントォン」みたいな音で呼んでいた。
話はようやく設定資料集に戻るが、つまり、なんでアクセルが混沌のエピソードを知ってて、双竜(HQ)がその答えを彼に求めたのか、それがさっぱりわからない。気づいた人がいたら教えてほしい。双竜は満足して彼のステージを終えられたのだろうか…。
その他のことなど
- 主要メンバー5人のうち、ダグラスだけメンバー入りの背景がよくわからないというか、大したキャリアでも人脈でもないんだよね。なんだかなぁ、と思いながら眺めていた。頭脳派といってもほぼ活躍しないし…。
- エレイナと新興宗教絡みのエピソード、どうしても『日本沈没2020』を連想してしまった。定番といえばそうなんだよなぁ。終末モノと新興宗教。
- キーポイントとなるスキポール空港の事故に5人とも巻き込まれていた、らしいけど設定的に大丈夫なのかは気になった。アクセルはまだ捕まるようなことやってなかったのか? エレイナは教団脱出後と思われるが、何をやっていたのか? など。
- 第7話「Almost Blue」、どう考えてもそんなことに時間を割いている場合じゃないように思うが(機密捜査にしたってやりようがありそう)、それこそ挿絵的に挟まれるが1番好きかな。日本も登場する。
Last modified: 2025-07-07