『湖の女たち』を観た。変な出来栄えだのような感想を目にしたので、期待していた。原作が『怒り』の吉田修一と知っていたら、見ていなかったかもしれない。結果として(原作の良さを生かせていないという感想も目にするものの)、作家への解像度が上がったなぁというのが最大の印象だ。
滋賀、琵琶湖が舞台らしいことはわかるが、滋賀ナンバーの車が出てくること、登場する警察署が湖西署だかいうこと、登場人物のひとりの住所がチラッと映ることくらいしか情報はないかな。地方を舞台にした映画、数少ない映画の視聴歴でもいくつか思い浮かぶけど、当面は本作が THE 滋賀映画 になりそう。いいのか!?
主人公2名の奇妙な性愛、高齢者介護施設での事件、数十年前?の薬害事件、ハルビンにいた日本人らの秘密、ざっくりこの4つが絡むようで絡まない。絡まないけど、並行しながら時間は経過していく。話はあんまり進まない。
一応、うしろの3つには一本の軸があるように見えた。が、どうなんだろうか。「世界は美しいのか(残念ながら、そうではない)」というメッセージはいいし、そこに翻弄される人たちもいいんだけど、あくまで翻弄される側としてしか存在していないっぽいんだよな、登場人物らは。で、自暴自棄になっている。
『怒り』でもそうだが、作者が、日本あるいは人間の生じさせる闇を意識しているとすれば、それがエンタメたり得るのかも気になるが、それ以上に、本作はそこまで醜悪でも無ければ、美しくも無いんだよな、どっちつかずで。結局、振り回されるだけなので。だから、子悪党に成り下がった伊佐美が結果的に1番人間らしく見えた。
たとえば、市島松江という女性が、ハルビンの冬の湖を見たという。それは美しかったと。ほかの登場人物はしらぬが、彼女にはそれまでは世界は美しかったらしい。CGなのか、どこかで撮影したのかしらぬが、湖面は雪で覆われており、地平線の向こうまで白い。よし、わかった。
逆に、狙い通りかもしれないが、今作で、ただまっとうに琵琶湖が美しいと思えるカットはなかった。水面がきれいだなと思う程度はあったけど。だから別に、何とも思わないんだよな。何を見ても。世界がもとからそんなに綺麗じゃないことくらい、皆知ってるんですよね。
ラストシーン、自分の解釈を断じるほどまで咀嚼していないけれど、ポジティブなものだとすれば、同じ類の過ちは繰り返したくない(口で言うのは当然だし、当たり前なんだけど)という表明のような内容には思えた。まぁ、なんでああいう状況なのかは、ほぼわからないけれど。
あー、あとこれは全然いいんだけど、好きにしてほしいんだけど、登場人物の台詞のある男たちで、まともな人格を保持してるっぽいのが、ほぼ1人もいないタイプの作品だったので、それは覚えておきたいね。どいつもこいつも怒鳴り散らしているのは、ユニークだ。
Last modified: 2024-06-19